目を開けると・・・
「━━━あり━━━━わ!━った━━━なん━━━━━ば━━━」
・・・んん。
誰だ・・・喋ってるのは・・・・・
━━━━目を開けると、すぐ目の前に見知らぬ女性が立っていた。
なんだか少し怒っているように見える。
だがしかし、俺が目を開けたのを見ると、その表情はすぐに喜びに変化した。
「ああー!!やっと起きたぁぁ!!」
「ええと、どなた様で・・・?」
俺がそう言うとその女性は驚いた表情で俺へと顔を近づけてきた。
「ええぇぇぇ!?私の事、覚えて無い!?ほんとのほんとに!?」
そう言われ、俺は少し考える。
元気溌剌という様子で、すぐにころころと表情が変わる女性。年齢は・・・俺とそう変わらないように見える。18歳前後、といった所か。
朱色の長髪はよく見ると毛先が鮮やかな緑色になっている。こんな髪の色の人、見たら忘れないと思うんだけど。
「うーん、全然記憶にない・・・こんな印象が強い人、忘れるとは思えないんだけどな・・・」
「そう・・・なんだ・・・・・」
それを聞いて黙りこくってしまう少女。
とても悲しそうで今にも涙が溢れてしまいそうな彼女の顔を見て焦りが生まれる。
「ごっ、ごごっ、ごめん!!頑張って思い出すから!!多分、いや絶対!!すぐに!!」
アワアワとどうにかして思い出そうとする俺。
だが、少女はその俺の様子を見てふふっ、と笑顔に表情を変えた。
「うーそ!玖郎が覚えてないって事は最初から分かってたんだから気にしないでっ!」
いやいや、君の悲しそうな様子を見たから気にしたんであって・・・もしかして俺の感情、弄ばれた?
「ああー!ごめんごめん!!そんな不満そうな顔しないで!それじゃあ、自己紹介だね!私はニーナ!よろしくね!!」
「ニーナ・・・やっぱり覚えてないや。でもよろしく、ニーナ。僕は城崎玖郎・・・って、知ってるか。さっき呼ばれたんだった。変な感じだね」
そうして名前を教えられたところで思い出す。
ちょっと待てよ。俺は意識を失う前王国の人たちと一緒にドラゴンと戦っていて━━━━━
「あ!あのドラゴンはどうなったんだ!!王国は!?」
大丈夫ならすぐに戻らないと!みんなが危ない!!
そこまで考えて周りが
・・・あれ?ここ、どこだ?
何も無い白一面の空間。上下も左右さえあるのかないのか分からない不思議な場所。
そんな閉鎖空間に俺とニーナと名乗った少女が2人。何も起きないはずがなく・・・じゃなくて!
「あー!それなら大丈夫だよ!ここは玖郎の中の世界だから!時間とか、全然無いから!」
時間という概念が無い・・・?
普通ならあり得ないけど、これも魔法か?
それに100歩譲ってそれが全て真実で、ここが俺の中なんだとしてもだ。ならなんでここに
久しぶりに大量の疑問符を浮かべた俺にニーナが話す。
「ごめん!疑問は色々あると思うけど今は言えないの!!」
両手をパンっ、と合わせ頭を下げるニーナ。
「いや、それはいいよ。今は信じる事にする」
「玖郎ならそう言ってくれると思った!ありがとう!」
やはり、俺は彼女を何一つ知らないのに彼女は俺のことはお見通しのようだ。
とても怪しい子だが、悪い事をするようには見えない。とりあえずは言うことを信じてみよう。
「それで、外はどうなってるんだ?」
「えぇと・・・優勢だった王国の西側は人員が一気に減ったせいで段々と劣勢に。東は・・・というか王城が敵に侵入されてるわね。そして北ではたった今貴方がドラゴンの胃袋で絶賛消化中よ」
「なんだよそれ!!信じられるか!!」
前言撤回。さっきのは嘘だ。
こんなこと言う奴信じられるか!
「・・・嘘じゃないわ。ほんとよ?」
ころころと表情を変えてきた彼女が、突然真顔になった。
正面から瞬き一つせずにこちらの瞳を見て、堂々とそう言う彼女の姿には説得感があった。
「ごめん。信じたくなかっただけなんだ。こんな・・・」
ほぼ負けみたいな戦況なんて。
そう自分の口から言うのは憚られた。
「ちょっと勘違いしないで!戦いの方は問題じゃないの!!問題はもう一つの方!!」
だけど、何事も無いかのように話を次に進めようとするニーナ。
ちょっと待て、その話題は流せないぞ。
「問題じゃない?なんで?」
「なんでって・・・今から全部私が解決するからよ」
またもや真顔で、正面からこちらを見据えながら、そうなるのが当たり前のように話すニーナ。
元気溌剌で人当たりの良さそうな様子は何処かへと鳴りを潜め、底の見えない化け物が出てきたような気がした。
だがしかし彼女はその化け物のような面をすぐに引っ込めると、元のニコッと笑う元気そうな様子を見せた。
「全部説明してあげたいんだけど無理なのよ。ここには外の時間は関係無いけど制限時間があるの!」
そう言われた瞬間、突如として抗いがたい眠気が訪れた。
「ああ!ほら!行ったそばから!!まだ話は終わってないのに!!」
これ、ここで眠ったらどうなるんだ・・・?
「それは大丈夫!次に目を覚ます時は全部解決してる・・・はず!!」
おい、今の間はなんだ。まあいいや。
出来るだけ王国の人たちを助けてあげてほしい。
「うん、分かった。この話の続きはまた今度、ね?」
もう目を開ける力すら出ない・・・
そして俺は浮遊感と共に深いこの空間の底へと落ちていく・・・・・
意識を失う直前、耳元でニーナの声が聞こえた気がした。
「それじゃ、おやすみなさい。私の大事な大事な王子さま。ふふっ━━━━━」
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