限界なんて知らねぇ!
『ソコニ、イタカ』
「な、なんで・・・」
爆発の余波で舞った土埃の中から現れたドラゴンは、傷ひとつ無く平然としていた。
俺が放った魔法は奴の頭に直撃したはずだ!!
そう叫ぼうとするがその声を出す力すら出ない。
パキ・・・パキィィィ・・・
なんだ?
変な音が。氷が割れるような音が聞こえた。
なんとか目を凝らして見ると、ドラゴンの顔の横にはボロボロになった氷でできた盾が今まさにボロボロと砕け散っている最中だった。
クソっ!!防がれたっ・・・
そう理解した俺の頭に、声が響く。
『ソノマリョク、マチガイナイッ!』
興奮した様子で話すこいつは誰だ?
直感、というか答えは一つしかない。目の前のドラゴンだろう。
「お、まえ・・・何しに来た・・・」
言葉が分かるならこんな事をする理由を教えろよ。
俺は息も絶え絶えの中、質問をする。
『オマエッ!オマエダ!!ワガクモツトナレ!!ニンゲンッ!!』
ドラゴンはニタニタと楽しそうに答えた。
クモツ・・・供物か。
「おれを・・・たべにきたのか・・・?」
『ソウダ!!』
なんで俺なんかを?
だけど俺だけが目的なら・・・
「なら、おれを・・・たべたら、かえってくれるか?」
俺だけが犠牲になれば或いは。
だが、その希望はすぐに消え去る。
『イイヤ、ニンゲンハ、ミナクモツダ』
皆供物。つまり、こいつは王国の民全員を食うつもりなのか。
そうか・・・それならダメだな。
俺は倒れそうな足に力を入れて、正面からドラゴンを見る。
そして右手を持ち上げると、前へと向けた。
二度、魔法を使ったことはない。
だけどヤツを守る氷の盾が壊れた今、もう一度撃つことが出来れば勝機はあるはずだ。
『ホウ、マダヤルカ。ワガタテヨ!!』
しかしドラゴンがそう言うと、どこからともなく幾つもの氷の礫が現れた。それがドラゴンの目の前で集まると、なんと壊れたはずの氷の盾が復活した。
「は・・・?」
━━━━その瞬間、心がぽきりと折れる音が聞こえた
どさっ、と音を立てて俺は地面にへたり込む。
アリミナとセレクタ、そして無数の王国の人を守りたい気持ちが無くなった訳じゃない。
だがしかし、本能で、心の奥底で諦めがついてしまった。ああ、これはダメだ、と。
こっちはフラフラになりながら魔法を撃ったのに、あいつは最も簡単に盾を復活させやがった。
『ム・・・?コナイノカ?』
そんな俺を不思議そうに見るドラゴン。
そのうち目の前の餌が無害だと判断したのかドラゴンは俺へと前足を伸ばした。
だんだんと大きなドラゴンの足が近づいてくる。
今から食われると言うのに不思議と恐怖を感じない。これまで何度も死にそうになったから慣れたのか?それともアドレナリンが出まくってるからか?
まあそんな事どうでもいい。もう終わりなのだから。
そして俺は目を閉じる。
体を掴まれる感覚がした。
━━━━━?
おかしい。いつまで経っても痛みが来ない。それどころか意識をはっきりしている。
俺は恐る恐る目を開く。
そして俺が見たのは━━━━━
「この少年を守れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
さっきまで地面に倒れていた兵たちがドラゴンへと走っていく姿だった。
「な、なんで・・・?」
口から疑問が出た。
そして何故かだんだんとドラゴンとの距離が離れていく。
俺は1人の兵士に抱えられているようだ。
俺を逃がそうとしてくれてるのか?
「こんなガキが戦ってんのに俺たちが何もしねぇ訳にゃあいかねぇ!!」
「時間を稼げ!!そしたら少年がドラゴンを倒してくれるはずだぁ!!」
周りからそんな声が聞こえてきた。
まだ、戦うのか。俺は諦めたのに。
「君!さっきのはまだ撃てるか!?」
すぐ横から声が聞こえてきた。
俺を担いで走る兵士の声だ。
さっきの、と言うのは間違いなくあの魔法の事だろう。
「・・・いけます」
無理だ・・・とは言えなかった。
もう体にほとんど力は入らないし、意識を失えという脳からの指令を拒んでいるからか頭が割れるように痛い。
そんな状態で魔法を撃ったらどうなるかなんて考えたくもない。
それでも、まだみんなが諦めていないなら、俺も諦める訳にはいかない。
俺は兵士さんに降ろしてもらう。
俺とドラゴンとの距離はそこまで離れておらず、お互いがお互いを視認できるくらい障害物もない。
だがドラゴンは、足元に群がる兵士たちを邪魔そうに薙ぎ払っている。
彼らが全滅する前に!急がないと!!
俺は右手へと意識を集中させた。
さっきと同じように撃つんじゃあの盾に防がれる。それじゃあダメだ。あの盾を貫けるほどの貫通力が要る。
何人もの兵士たちが踏み潰された。
何人もの兵士たちが噛み砕かれた。
それでも俺は彼らの想いを薪として、怒りをただ一心に右手へと意識を集中させる。
そしていつものように右手が輝きだす。
が、その時異変は起きた。
━━━━ゲホッ!?
突然吐き気に襲われ、口から胃液が飛び出す。
手と足も、それどころか身体中が自分のものでないかのように震え出した。
身体がそれを止めろと言っている。
そのうち立っている事が出来なくなり、またしても地面へと倒れそうになる。
「無理を強いてすまない・・・これくらいしか助けになってやれないが頼むっ!!」
しかし、今度は兵士さんが支えてくれた。
ついに光り輝く右の掌から、その光に全ての色を奪われたかのような真っ黒の球体が出現する。
だが今度は、視界が赤く塗りつぶされた。
眼から出血したようだ。そして鼻からも血液が流れている。
だけどそんな些事は今の俺には関係なかった。
「もっと小さく・・・もっと細く・・・もっと強く!!」
━━━━━そして漆黒の弾丸に変化が訪れる。
それはまるで水であるかのように自由自在に動きだしたかと思うと、丸いボールのようなフォルムから先の尖った円錐形に姿を変えた。
それだけでは終わらず円錐の先が回転し始めると、周りの部分がくるくると巻き上げられていき、動きを止めたそこには一本の漆黒の槍があった。
ちょうどその時、ほとんどの兵士を殺し終えたのであろうドラゴンが俺へと一直線にその4本の足で加速を始めたのが見えた。
それに俺はゆっくり、ゆっくりと狙いを定めて━━━━━
「いっけええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
『フンッ!!タテヨ!!』
ズギャギャギャギャギャギャァァァァァァァ!!!
まるで金属音のような、漆黒の槍が氷の盾を抉る音が鳴り響く。
一見すると拮抗しているように見える矛と盾であったが、すぐに変化が現れた。
パキィィィィィィン!
尖ったその槍先は徐々にその盾へと亀裂を作り、盾を破ったのだ。
そしてこれまで盾で動きを止めてくれたお返しとばかりにギュルギュルと加速した槍がドラゴンの頭へと向かい、
『ナッ━━━━━━━』
それは一瞬だった。
漆黒の槍がドラゴンの顔を通過したかと思うと、その右半分を大きく抉った。
『ガ、ガガガガガガァァァァァァァアアァァァァッ!!』
抉り取られた場所からどくどくと血を吹き出したながら絶叫をあげるドラゴン。
しかし、人であれば致命傷であるその傷を負いながらもドラゴンはまだ意識があった。
『ヲヲヲヲオオォォォォォォ!!オマエヲクラエバァ!!コンナキズゴトキィ!!』
その巨体は速度をほとんど緩める事なくこちらへと近づいてきていた。
ま・・・ずい・・・・・
そこで俺の意識は限界だった。
最後に見たのは右の顎が消し飛び、口を半分ぶら下げながらも俺を呑み込まんとするドラゴンの大きく、暗い喉の奥だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます