ドラゴン

「みんな、北門へ急ぐぞ!!」


 そう周りの兵たちに声をかける人物を目印として俺は北門へと走る。

 

 たった今王国は東門の帝国軍に北門のドラゴンという脅威に晒されている。

 これらへ手を回したせいで西門もまずいかもしれない。


 そんな3箇所で戦いが起きている中、俺は北門へと足を向けた。

 理由は俺が扱える魔法にある。

 未だに何から何まで分からない俺の魔法だが、一般人を簡単に殺してしまう威力がある。だから敵と味方が入り乱れる戦場より同士討ちの心配がないドラゴンという大きい的がある戦場の方が良いと踏んだのだ。


━━━━グギャオォォォォォォン!!


 突然、遠くから空が割れそうなほどの爆音が聞こえた。

 耳が潰れそうなくらいのその音波は地面を震わせ、腰を抜かした兵もそうでない兵も平等に地へと這わせる。

 そして地震となったその振動に耐えきれなかった建物がガラガラと崩壊していく。


 皆が察した。これがドラゴンの鳴き声なのだと。そして生物としての次元の違いを。

 たった一声鳴いただけで。この攻撃ですらない動作だけで辺りが火の海になってしまった。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 幾つもの建物が崩壊した衝撃で舞った土埃の中から、逃げ遅れたのであろう市民が走ってくる。

 市民はこちらを見つけるとホッとした様子で歩を緩める。

 が、その時だった。遠くから見ている俺たちは土埃の中から大きな影が段々と近づいてきている事に気づいた。


「に、逃げろぉぉぉぉぉぉ!!」


 1人の兵が叫んだ。

 市民がキョトンとした顔で後ろを向いたその瞬間━━━━━

 

バッガァァァァァン!!


 大きな大きな足が市民を上から押し潰した。

 衝撃波が土埃を吹き飛ばし、地面には先ほどの鳴き声とは段違いの地震が起こる。


 土埃が晴れた事でその化け物の全貌が明らかになる。それはまさしく暴虐の化身だった。


 全身が氷柱のように尖った巨大な体躯に、その体躯を支える4本の足、中でも目を引くのが驚くほどに真っ青なその翼。

 そして龍を守るように身体の周りを幾つもの雹のような白い礫がぐるぐると回っている。


「あ・・・あぁ・・・む、むりだ・・・」


 誰かか震える声で言った。

 兵たちは皆固まってしまっている。


 そんな中、俺は立ち上がる。

 ドラゴンを見て絶望している兵たちと対照的に、全体像を見て俺はこれならまだ戦えると確信を持った。


 というのも思ったよりドラゴンが小さかったのだ。特撮やアニメで見るような龍はもっと大きかった。それと比べたらせいぜい3階建ての建物より少し大きいくらいのドラゴンは肩透かしも良いところだ。


 もちろん、怖くはある。ただ思っていた規模より小さくて少し勇気が湧いただけだ。

 先ほど目の前で起こった事を忘れたわけではない。


「俺が、やらないと・・・」


 俺は震える足を奮い立たせドラゴンを見る。

 一体こいつは何人の市民を殺したのだろうか。怒りと共に掌をドラゴンの方へと構えた。


 しかし、掌が光らず力も出てこない。


「あれ、なんで・・・」


 魔法が使えない?なんでだ?何が足りない?

 俺は脳を総動員させて原因を考える。

 あいつに対する殺意が足りないのか?


 あいつを倒せないとどうなる!みんな死ぬだろ!

 一緒に戦った兵達も、途中で見た親子も、アリミナもセレクタも守れずに死ぬ!!

 怒れ!怒れ!!怒れ!!!


 そうして俺はドラゴンに対する怒りをどんどん増幅させていく・・・


 すると、右手が光を放ち始めた。

 正解だったようだ。


 目の前のドラゴンは不思議そうに顔を傾げてこちらを見ている。

 わざとらしく首を捻っているのが尚更俺の怒りに火をつけた。

 待ってろ、今その顔をめちゃくちゃにしてやる。


 輝きが限界まで高まると、ドラゴンの顔に狙いを向けて━━━━━


「いけぇぇぇぇ!!」


 ピュンッ━━━と静かな音を共に飛び出した漆黒の弾丸が龍へと向かう。そして、


「グギゴァァァァァァァァァァ!!」


ドガァァァァァン!!


 ドラゴンの悲鳴と共に漆黒の弾丸が爆発する。


「よし・・・やった・・・」


 ふらふらとしながらも、俺は倒したであろうドラゴンの方向を見る。

 爆発で再度舞った土埃のせいでドラゴンの姿がよく見えない。


『ソコニ、イタカ』


━━━━━ッ!?


 突然、頭の中に声が鳴り響いた。

 声と共に土埃が晴れる。


「な、なんで・・・」


 そこには、先ほどと変わらない姿でこちらを見つめるドラゴンの姿があった。

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