絶対帰ってくる
「━━━━という訳で、もうすぐこの国に帝国軍が攻めてくるらしいんだ」
再会から一息ついて部屋の中でアリミナとセレクタに向き合う俺は2人に『大討伐』で起こった事の顛末、それとこれから王国に帝国軍が攻めてくる事を語った。セレクタは聞いているのかいないのか、相変わらず無表情だが、それを聞いたアリミナは驚いていた。
「ええっ!?もう攻めて来るのだわ!?この国ならしばらくは安全ってセバスが言ってたのに・・・」
「ちょっと待て、なんでセバスは安全って分かったんだ?」
「王国と帝国はとっても遠いのだわ。それに、少なくとも私たちがあそこから逃げる時までそんな話聞いてなかったはずなのだわ。帝国の次に大きい国が王国だから出発したなんてそんな大事な事知らされないはずが無いのだわ」
と言う事は帝国軍はアリミナ達より後に出発した?
地図によると、この大陸の最西端に位置するのが『ゴドラゴ帝国』、そして最東端に位置するのが『ワルドローザ王国』だ。地図を見るに元の世界のユーラシア大陸と比べるとはるかに小さいだろうが、それでもそこそこの距離はあるはずだ。
そして距離の問題に加えてアリミナ達3人が王国まで来るのと王国を落とせるほどの兵力が王国まで進軍するのとでは何倍もの時間と労力が必要になるはず。
俺たちが街に着いてから1週間も経っていないのにそんな事可能なのか?
そう考えると何かがおかしい・・・
「あっ!!」
そこまで考えた所で重大な要素に気づく。
ロゼアさんを殺したあいつら!あいつらの中にワープゲートみたいなのを作れるやつがいたよな!!
「きゅっ、急にどうしたのだわ?」
「アリミナ!帝国で第一位とか第二位とか呼ばれてる奴らに心当たりはないか!?」
「ええ、それならもちろん・・・ってああ!!」
アリミナにも心当たりがあったようだ。
ありがたい!早速教えてもらおう!
「なあっ!そいつらについて知ってる事を教えてくれ!」
「わ、わかったのだわ。でもその前に、ちょっと近いのだわ・・・」
そう言われ、ふと冷静になる。
俺のすぐ目の前、お互いの鼻と鼻が当たってしまいそうなくらい近い距離に、斜め下へと目を逸らして頬を赤らめているアリミナの顔があった。
「あ、ああっ、ごめんっ!」
いつの間にか掴んでいた彼女の両肩をすぐさま離す。
「きっ、気にしなくてっ、いいのだわ・・・」
そして自由になったアリミナはこほんっ、と可愛らしく小さな咳払いをすると口を開いた。
「ゴドラゴ帝国には『
「そうなのか、その神器ってのはなんなんだ?」
「ええと・・・『
アリミナがたどたどしく答える。
「それだけか?」
「ごめんなさい・・・これだけしか知らないのだわ」
「いや、大丈夫だ。知ってることだけでいいんだ」
うーん、こうなるならもうちょっとよく聞いておけば良かったのだわーと肩を落とすアリミナ。
「そのゴッズレギオンって人たちが死んだらその10人の枠はどうなるんだ?」
確かロゼアさんが死闘を繰り広げたあの場には既に幾つか死体があった。全員がそのゴッズレギオンって奴らかは分からないが何人かは死んだはずだ。
「後継者に神器が渡されて元通りなのだわ。だから、空席になる事はないのだわ」
「そうかぁ・・・」
悲しい現実に打ちのめされる。
あわよくば、と思ったけどそう上手くは行かないかぁ・・・。
「じゃあ次は他の9人の能力を教えてくれるか?」
「わかったのだわ!まず第一位は━━━━」
カァン!カァン!!カァン!!!カァン!!!!
突然大きな鐘の音が聞こえた。
アリミナの声を遮るように忙しなく鳴らされるそれがその時が来てしまった事を俺に知らせる。
「はぁ・・・あいつらが来たみたいだ。行ってくる」
それだけ言うとすぐさま弓を手に取って外に出ようとする。
が、動けない。
後ろからアリミナが俺の腰に手を回して掴んでいるようだ。
「━━━━ッ!?」
「今回も・・・大丈夫だよね?帰ってくるよね?」
震える声で彼女がそう尋ねる。
「大丈夫だ。絶対帰ってくる」
絶対、なんてものは無い。そうは分かっているけど、そう答えた。
すると腰に回された手が解かれた。
「そう・・・それじゃ、行ってくるのだわ」
「ああ、行ってきます」
覚悟を決めた俺は扉を開けて外へ出た。
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