戦いの後2
「ほらほら〜ここまで来たらもう一つしかないでしょ〜?早く当てて頂戴?」
俺を助けてくれた研究者のシズクが俺を助けた理由を早く当てろと催促してくる。
みんなを助けたことじゃないなら心当たりは一つしかない。
「俺が魔術を使ったこと・・・ですか?」
確か魔術士は珍しいんだったよな?
それならこの研究者が貴重な術士に興味を持った、という流れは筋が通っているように見える。
「まあ!そうよ!正解よ〜」
「や、やったー?」
ちょっと待てよ。そういうことなら俺、なんか色々ヤバい実験とかされちゃうんじゃないか?ちょっとこの人怖くなってきたぞ。
「どうして疑問形なの?心配しなくても大丈夫よぉ〜。何かする時はちゃんと聞くからぁ〜」
「ほんとですか?」
「ほんとよぉ〜」
まあ、そこまで言うなら大丈夫か。
優しそうな顔だし、おっとりしてるし、あんまり悪い人には見えない。
よし、休憩はこれくらいにしよう。
シズクさんとの会話を切り上げて俺は立ち上がった。
「あら?どこにいくの〜?」
「王国に戻らないと。守らないといけない人がいるんです」
「ふ〜ん?それは戻らないといけないわね。そういうことなら〜ちょっとついてきてぇ〜」
彼女の後をついて行くと、大勢の人物に指示を飛ばしている男がいた。
「ワッターさ〜ん!」
「━━━━む、貴方は確か王宮研究者の・・・!どうされましたか?」
「この子は分かるでしょ〜?」
シズクさんは指示を飛ばす人物へと近づくと、俺に視線を向けた。
それに続いて視線を動かしたワッターと呼ばれた男は俺を見るなり驚いた表情をした。
「ああ!お目覚めになられましたか!!私たちを助けて頂き本当にっ!本当にありがとうございました!私は『大討伐』の臨時代表をさせていただいているB級冒険者のワッターです。・・・おい!!お前ら!!俺たちの命の恩人が目を覚ましたぞ!!」
ワッターさんがそう言うと周りにいた冒険者たちが一斉に俺を囲んだ。
「ありがとう!本当に助かったよ!!」
「君かい!今度ご飯奢らせとくれ!!」
「俺も俺も!俺も奢るぜ!」
「君、顔知らないけど新人かい?タスクのクソ野郎を倒したあれはなんなんだい?」
「あんた、可愛い顔してるじゃない。王国に帰ったら私と一杯飲みましょう?」
ガヤガヤと四方八方から話しかけられる。
ちょっと同時に話しかけないでくれよ、俺は聖徳太子じゃないんだ。
それを見かねた様子のワッターさんが大きく息を吸った。
「おいお前ら!!俺たちの恩人様が困ってるじゃねぇか!!やめろやめろ!言いたいならお礼だけにしとけ!!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
と、今度は周りの冒険者全員に頭を下げられる。
側から見ると何かの宗教のような光景が広がっていることだろう。俺は教祖か。
「いやいや、皆さん顔を上げてください。照れちゃいますから!そう言うのはあんまり!」
なんだかむず痒いし、口角は上がりっぱなしだし、恥ずかしくて仕方がないので辞めてほしい。
そんな一連の様子を見ていたシズクさんがうふふっと笑うと口を開いた。
「彼、王国に早く戻りたいみたいなの〜」
「そうでしたか、なら帰還組に入れましょうか」
話を聞くと、今冒険者たちは王国へと帰還する人達と帝国軍を横から叩くために残る人達に分けている最中のようだ。
「それじゃあ出発はいつになるか分からないし、更にそこから半日はかかっちゃうでしょ〜?」
そうだ。来る時も半日ちょっとかかったんだった。
夜になったら動けないだろうし、王国に到着するのは間違いなく明日以降になる。
帝国が今何処まで攻めてきているかわからない以上、早く帰りたいのだが。
「それが言いたかったんじゃなくてね?今から抜け出して2人で帰るから〜って言いに来たの〜」
「そうでしたか。貴方ほどの方が言うのでしたら異論はありません。お気をつけて」
━━━━そうして俺はシズクさんに手を引かれて村の外まで連れてこられた。
「今から出発しても、日が暮れるまでに間に合わないんじゃないですか?それに、2人で大丈夫ですか?」
疑問に思って聞く。体感だが、今は大体昼の3時を過ぎた辺りのはずだ。今から半日歩くとなると間違いなく夜までに到着する事はできない。
早く帰りたいとは思ったがここは一応危険地帯で魔物もそこそこ出る。2人で移動するのはいささか危険なのではないか。
「それなら大丈夫よぉ〜」
そんな俺の疑問を払拭するかのように彼女は上着の内ポケットから一つの液体の入ったビンを取り出した。
「私の可愛いスライムちゃん、出てきてぇ〜」
そう言うとビンの蓋を開ける。
すると中の液体がうにょん、とうねりながら外へ出て、みるみるうちに姿を変えていく。
そしてそれはニョキっと生えてきた4本の足で立つと、シズクへと頭を擦り付けた。
「これは・・・馬か?」
「違うわ〜?ユニコーンちゃんよぉ〜?」
最後ににゅっ、と頭からツノが生えてきた。
本当だ。ユニコーンだ。
「私、王宮でスライムについて研究してるの。この子なら王国まですぐに行けるわぁ〜」
ユニコーン?からにゅっ、と延びた6本の腕が器用に彼女を持ち上げると、自らの胴体に乗せる。
そうしてユニコーンの上に跨った彼女はにこっと笑うと、こちらへと手を伸ばした。
「ほら、行きましょ?」
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