討伐隊、行軍

 行軍が始まり、おそらく半日は経過したであろう。

 傾斜こそ無いが半日も歩き続けている。ちょっと足が疲れてきたかな・・・とそんな事を考えていた時、前の方から声が聞こえてきた。


「━━━━な、なんだ!?あれは!?」


 なんだなんだ?何かあったのか?

 気になって背伸びをしてみる。が、前の人たちの背中と頭しか見えない。

 すると、急に体が持ち上がった。


「わ!わわ!!ちょっと、ドーイさん!?」


「見たいんだろ?ちょっと俺のためにも見てくれや」


 ドーイさんが肩車のような形で俺を持ち上げたようだ。

 急な浮遊感に驚かされたが、俺は見えた光景にさらに驚くことになる。


「あれは・・・凍ってるのか・・・?」


 ここから先は異界だと世界を分けるかのように一本の線で隔てられたその奥には、まるで全ての時間が止められたかのような氷の世界が一面に広がっていた。


「なんだ?凍ってる?おいクロウ、俺にも説明してくれ!」


 ドーイさんが早く早くと俺を急かす。分かった分かったって。

 彼から降りると口を開く。


「山とか川とかが、全部凍ってます・・・一応聞きますが、もしかして元々こんな場所だったりします?」

 

「んなわけあるかい。川が凍っちまったらどうやって水を汲むんだよ!って、そんなことになっちまってるのか。そらぁ大変だな」


 他人事のように話すドーイさん。

 そして目に見える明らかな異常にいつの間にか行軍が完全に停止してしまったようだ。


 しかし流石はプロ。すぐに決断した先頭が声を張り上げた。


「異常が見られたが、任務に支障なしと判断した!!これより移動を再開する!!目的地は『セガリ村』!!各自戦闘体勢を取りながら後に続け!!」


 先頭の人たちが一糸乱れぬ集団行動で陣形を組み、俺の周りの冒険者たちもそれぞれの武器を取り出した。

 辺りにぴりぴりとした雰囲気が流れ出す。


「ようやく本番みたいだなクロウ、お互い死なないように頑張ろうぜ」


「ああ」


 ドーイさんが左手に丸い盾を構え、右手で剣を持った。それに続いて俺も弓を取り出した。




「━━━━━魔物が出たぞ!!」


 更に半刻ほど歩いた所で先頭の誰かが叫んだ。

 ついにお出ましか。

 だが、前に出ようとした俺をドーイさんが手で静止させた。


「大丈夫だ、俺らの出番は今じゃねぇ」

 

 どういうことだ?敵が出たんじゃないのか?


ドォンドォンドォォン!!


 そう思った矢先に爆撃音が3度聞こえた。


「敵を倒した!引き続き前へ進むぞ!」


 すぐに先頭がそう宣言する。


「な?言っただろ?」


 呆気に取られる俺に何故か自慢げに話すドーイさん。その顔になんだかちょっと腹が立った。




━━━━その後何度も魔物が現れたみたいだが、その都度すぐに討伐されたようで俺たちの出番はいつまで経ってもやってこなかった。


「ちょっと待ってください。まさか、俺たちの出番ってあんまり無かったり?」


 今更だが、A級パーティーもB級パーティーもいるのにE級冒険者の俺の役割ってなんなんだ?

 そうドーイさんの方を見ると、彼も少し困惑していた。


「うーん・・・普段来てもB級冒険者が数人ってとこなのにA級パーティーが参戦してるからもしかしてって思ったが、こりゃあ俺たちの出番は無いかもな!」


 そう俺に言うドーイさん。

 そういうことは早く言ってくれよ。今回の『大討伐』は運良く過剰戦力ってことか。


 話に聞いていたスライムの津波こそまだ見ていないが、未だに魔物の一匹すら目にしていない。

 こんなんで本当にいいのだろうか。





━━━━そして遂に俺は接敵することなく『セガリ村』にたどり着いてしまった。


「一匹も倒さずにセガリ村まで来ちゃったよ・・・」


「ああ、俺もちょっと驚いてる。こんなの初めてだよ。こんなに人がいて死人は愚か怪我人も出てねぇ。圧倒的すぎるぜ」


 列に続いてカチンと氷漬けになっている村の中心まで歩いていくと、そこでは大きなキャンプファイアーが焚かれており周辺でみんなが休憩していた。

 日も暮れてきたし、今日はここを拠点にするようだ。


 流石に野営は覚悟していたが、やはり『大討伐』は1日では終わらないらしい。

 確か、『プリンセスホテル』の宿泊日数の最小単位は1週間だったはずだ。俺が1日気絶して、1日宿泊、そして今日は野営・・・だからあとアリミナとセレクタがホテルから追い出されるまであと4日か。


 俺たちもちょうどいい段差に腰掛けると、ドーイさんに聞いてみた。


「俺たち、どれくらいで帰れますかね?」


「こんだけ余裕そうなんだし明日には帰れるんじゃねぇか?」


 やっぱりそうだよな。

 待っててくれよ、アリミナ、セレクタ。

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