大討伐と魔術師
「事の始まりは3ヶ月ほど前だ・・・」
『大討伐』が行われる事になった経緯をドーイさんが話し始めた。
「王国から少し離れた所にセガリ村って村があってな。村自体はそこまで大きい村って訳じゃないんだが、そこから湧き出る地下水の品質がすげぇ良いって評判でよ。料理に使ったり酒の素になったり、果てには化粧品として使われたりと大人気なんだが・・・あんた知ってるか?」
「いや、知りませんね」
「そうかい・・・まあ、人間誰しも興味ないことなんて気にも留めないよな。仕方ないか」
この世界に来たのが2ヶ月ほど前、そしてこの国に来たのがつい先日だから知らないだけなのだが。
勝手に変な勘違いをしてくれたようだ。
「・・・っと、話が逸れたな。そのセガリ村の地下水はとある『洞窟』で汲まれていたらしいんだ。洞窟って言っても深くもないし広くもない、名前も無い洞窟だったらしいんだが・・・」
ドーイさんが神妙な面持ちで意味ありげな間を取った。
さて、ここからが話の本題だろう。
「ある日、その『洞窟』に入ると見たことのない穴が開いていたらしい。奥は暗くて見えないからって最初はあんまり気にしなかったらしいんだが、例の水を汲んで帰ろうとしたその時だ。その穴から
スライム。日本に生まれた身として聞き慣れた単語だ。だが、スライムと言えば最弱の魔物というイメージがある。最悪現地の村の人でも倒せてしまうんじゃないのか?
「あんたも思ってるだろうが、こんな
ちょっと、と人差し指と親指で小さな隙間を作りながら説明するドーイさん。
やはりスライムは弱い魔物なのか。
「そういう訳で
「激流って・・・そんなにですか・・・」
「村から命からがら逃げてきた奴の話によると木や岩、それに家の破片なんかを巻き込みながらこっちに近づいてくる様はまるで津波だったそうだ。1匹じゃ弱い
ひえっ。体から血の気が引いていくのを感じる。
流石にそんな死に方はしたくないなぁ。
「とまあ、そういった経緯で『大討伐』が出された訳だ。そんで肝心の依頼内容だが「村周辺及び洞窟内に発生した未知の『穴』の調査、そして
「魔物全ての討伐って・・・何万匹いるか分からないスライムをですか!?」
「もちろんそうさ。敵も多いがこっちの人数も多いんだ。負けるこたぁないさ」
そういえば・・・受付の時に小耳に挟んだ話によると、今回の参加者は1000人強らしい。
単純計算だが1人10匹倒せば、1万匹になる。
「あれ?意外と・・・楽?」
「そうだろ?しかも人数だけじゃねぇ。あそこの奴らが見えるか?あれはA級パーティーの『竜牙』だ。なんでも3人もの魔術師が加入してるんだぜ?そんであれに、あれ。それとあれがそれぞれ全部B級パーティーさ」
だから質もすげぇんだと子供がかっこいいヒーローの話をする時のように目を輝かせながら熱く語るドーイさん。
だが、俺は話の一か所に違和感を感じ取った。
「
そうだ。魔術師だ。『竜牙』と呼ばれた人たちは軽く見ただけで50人は超えているように見える。
それなのに、魔術師がたったの3人いるだけで凄い事だと言っているように聞こえる。
「なっ・・・これも知らないのか!?これは新人冒険者とかそういう話じゃないぞ!?あんた、一体どんな教育を受けてきたんだ?まあ仕方ねぇ、教えてやるよ」
そこまで世間知らず扱いされるくらい知ってて当たり前の存在なのか魔術師は。
でもそんな俺に教えてくれるそうだ。とても助かる。
「そうだな・・・魔術とか魔法って言われるもんは知ってるか?」
「ええ、それは知っています」
知っている。なんてったって出せたもん俺。
出せるとは言わないが、ちょっと得意げな顔で答える。
「それなら話が早い。全ての生命体が多い少ないに関わらず魔力を持ってるが、一般人には認識すらできない。だが稀にその魔力を魔術として操れる才能を持った人間が産まれてくるんだ。それが、魔術師さ」
全ての生命体が魔力を持っている?
それならやっぱり日本人の俺も魔力を持ってるってことだよな?魔法撃てたし。
「魔術師は火水風土の4つの属性から1人1属性の魔術が扱える。土の魔術が扱えれば建築の人達から引く手数多だし、水の魔術が扱えれば農家さんからモテモテさ。もちろん火と風にも使い道はある。━━━━まあ!魔道具のおかげで日常で使うような魔術は俺達にも出来るがな!」
こう言っちゃ悪いが、最後に負け惜しみのように付け加えるドーイさん。
彼は一瞬悔しそうな顔をすると続ける。
「だが魔術師はなんと言っても戦いだな。魔物と戦う冒険者から人と人とが戦う戦争まで、な。そこではたった1人の魔術師が数百人の価値を持つんだ。広範囲を吹き飛ばす爆撃ができたり空が飛べたりな」
確か王国を囲む大きな壁の上には大砲が並べられていたはずだ。そして今に至るまで、空を飛んでいる人工物も目にしていない。
そんな文明レベルの中で空から攻撃したり、大規模爆撃を放てるだけでとてつもない脅威になる。
説明のおかげで魔術師の重要度が俺にでも理解できた。
「かぁー!俺にも魔術が扱えればなぁー!そしたら今頃お金持ちになって可愛い女の子に囲まれてたはずなのになぁ」
はぁ、とドーイさんが肩を落とす。
「まあまあ、今のドーイさんがいるおかげで色々教えてもらえて俺はとても助かっていますよ。ありがとうございます」
そう感謝の言葉を口に出すと、彼は照れくさそうな顔でこちらの肩を叩いた。
「そ、そうかっ!いいこと言うじゃねぇか新人!!よっしゃ!!俺たちで百体も千体も倒してやろうぜ!!」
そうして上機嫌になったドーイさんと俺は討伐隊の列を歩いていくのであった。
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