大討伐開始

 目が覚めた。今日は『大討伐』の日だ。

 ベッドから起き上がろうとした瞬間、動かした右腕に変な感触を感じた。


「ん、うぅ・・・セバス、まだ眠いのだわ・・・」


 アリミナが、俺の右腕を抱き枕にして寝ていた。ぎゅっと抱きかかえるように寝ているため、彼女の柔らかいものが当たっている。

 うわぁ!びっくりさせないでくれ。こんな状況セバスに見られたらなんて言われるか・・・


 変な気を起こさないように気を逸らしながらゆっくり、ゆっくりと彼女から腕を引き抜いていく。


「ふぅ、朝から一苦労だよ・・・」


 今度こそベッドから出て顔でも洗おう。

 と、したが次は脚の上に何かが乗っていることに気がついた。


「今度はセレクタかぁ・・・」


 掛け布団を捲ると、中から俺の脚に跨って、太ももに頭を乗せて寝ているセレクタがいた。


「布団の中で寝たら熱いし苦しいだろ」


 そう言いながら、彼女の脇の下に手を入れる。猫を持ち上げるイメージだ。

 移動させてアリミナの横に来るようにした。


 今度の今度こそ、ベッドから出て洗面所へ行く。

 そこで気づいてしまった。蛇口がない。

 もしやと思い、水が出るところに手を近づける。が、出ない。色んなところを触ってみたり、顔を近づけてみたりするが一向に出ない。


「ここも出ないのかよ!!」


「んうぅ・・・どうしたのだわ・・・?」


 目を擦りながらアリミナがこちらに近づいてきた。


「うるさかったよね。ごめん」


 俺の状況をなんとなく悟った彼女が、日本の蛇口であれば回したり上げ下げしたりするバルブがある筈の場所に手のひらをかざす。

 すると、ジャーっと水が流れ始めた。


「これで大丈夫なのだわ?」


「ああ、ありがとうアリミナ」


 役目を終えた彼女は止める時はまた言って欲しいのだわ〜とベッドへ戻っていった。

 なんで俺だけ水が出ないんだ。なんだ、この世界の人達しか使えないような魔法でもかかってるのか?

 とりあえず水は出たから一旦いいか。

 

 手をお椀の形にして水を掬って、それを顔にパシャリとかける。

 冷たい水が刺激となって徐々に脳が覚醒していく。


「よし!」


 さあ、『大討伐』!頑張るか!!






「━━━━━それじゃあ、いってらっしゃいなのだわ!」


 アリミナとセレクタが起床してから全員で朝食をとった。朝ごはんは目玉焼きにパン、ベーコンとシンプルなものだった。

 俺は、2人を部屋に帰すとアリミナの送り出されながら出発した。


 集合場所はこの国の北門だったよな?

 マルコムさんから予め方向は聞いているから迷うことはない筈だ。

 時間は・・・まだ1時間くらいあるな。

 よし、余裕を持っていこう。




「━━━━━はぁっ、はぁっ、ぜぇ、ぜぇ、よかった・・・ギリギリ間に合った・・・」


 時間に余裕がある。そう考えた俺が馬鹿でした。

 この王国。いや、『国』って言ってるから当たり前なんだけどめちゃくちゃ広い。それはもう、北門に行くのに全力疾走でほぼ1時間かかるほどに。

 ロゼアさんの元で1ヶ月地獄の体力作りをした上での全力疾走でこれだ。本当に、どれだけ広いんだよ。


 門の周りに集まっている人だかりを見ると、全員が背中か腰に武器を持っている。

 ここの人たち全員が冒険者なのか・・・。

 人の多さに圧倒されていると息を切らしている俺に近寄ってくる男がいた。


「その様子を見るに・・・あんた新人か?」


「ええ、そうです」


「名前は?」


「城崎玖郎です」


「そうか、珍しい名だな。俺はドーイだ。よろしく」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 いきなり話しかけてきた人物と挨拶をすると、俺はそのドーイと名乗った人物を見る。鎧の下からは鍛え抜かれた筋肉が見える30代くらいの壮年の男性で背中に盾を、腰に剣を携えている。


 お互い自己紹介を終えたタイミングで人だかりの先頭の人物が声を大きな声をあげた。


「それでは!只今より『大規模討伐任務』を開始する!受付を終えたものからついてこい!!」


 そして大きな北門を開かせると先頭の人達は行軍し始めた。


「クロウ、受付は終えたか?」


「いや、まだですけど・・・」


「それじゃあちょうどいい、一緒に行こうぜ」


 ドーイさんに連れられて受付の列へと近づく。

 5つある列の一つに並ぶと、少しして自分たちの番が来た。


「それでは次の方、冒険者プレートを・・・ってあら、貴方は昨日の新人さん!」


 列の先にいたのは昨日俺の冒険者登録をしてくれた受付のお姉さんだった。

 一度見ただけだが、知っている顔に少し緊張が和らいだ。


「クロウ様にドーイ様ですね。ありがとうございます。これで受付は完了です。それでは、あちらの門から討伐隊の列へとついて行ってください」


 受付を終えてドーイさんと共に討伐隊の最後尾に並ぶ。すると彼がこちらに話しかけてきた。


「そういや、あんたはなんで『大討伐』なんて危険な依頼を受けようと思ったんだい?」


「それは・・・お金が必要だったからです」


「そうかい。はぁ、やっぱりかい。毎回いるんだよ。あんたみたいな金目当てで軽い気持ちで『大討伐』に参加する新人が。そんで大体の奴はヘマ打って死ぬんだ」


「はぁ・・・」


「って、そんな露骨に面倒くさそうな顔するなよ。こっちも説教がしたい訳じゃないんだ・・・とにかく!俺が言いたかったのは、あんたが死なないように俺がなんでも教えてやるってことだ!金は要らんぞ。何が聞きたい?俺みたいなおっさんは人にモノを教えるのが人生の楽しみみたいなもんだからな」


 よく喋る人だなぁ。ちょっと面倒臭い人かなと思ったけど、なんでも教えてくれるなら話は別だ。

 この際、気になったことを聞こう。


「そういうことなら・・・『大討伐』って魔物を倒すってことしか聞いていないんですけど、具体的には何をするんですか?」


「・・・あんた本当に新人なんだな。いいだろう!俺が教えてやる!!」


 ドーイさんが胸をドンと叩いて宣言する。

 おお、それは心強い。早く教えてくれ。

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