大討伐任務?

「『大規模討伐任務』・・・?」


 聞き慣れない単語だ。繰り返した俺にマルコムさんが頷く。


「ああ、そうだ。『大規模討伐任務』だ。まあみんなは『大討伐』って呼んでるな」


「『大討伐』・・・名前の通り魔物を倒せばいいんですか?」


「ああ、そうだ。やること自体はただの討伐任務と何ら変わりねぇ」


 だがな・・・とマルコムさんが続ける。


「食物連鎖が狂って魔物が大量発生したやら大量の配下を産む魔物が発生したやら理由は様々だが、どんな理由であれ魔物が異常発生した際に冒険者ギルドが出すのが『大規模討伐任務』だ。『大討伐』を発表するってことはもう2、3の冒険者パーティーでは太刀打ち出来ないってくらいの数、魔物が発生しちまってるのさ」


 どんな弱い魔物でも何十匹も群がれば人1人なんて余裕で殺せる。『帰らずの森』で何度も遭遇した血舐狼レッドウルフだってそうだった。

 あの時の記憶を思い出す。1匹を倒した隙に次の2匹がこちらに飛びかかってくるあの戦いの記憶を。

 俺が考え込んでいると、それを見かねた様子のマルコムさんが口を開いた。


「すまねぇ、俺から振っといてなんだがやっぱり無しだ。あんたが死ぬかもしれねぇのは良くねぇ━━━━━」


「報酬は・・・報酬は幾ら出るんですか?」


 でも、やるしかない。俺1人だけであれば路上生活でも良いかもしれないが、アリミナとセレクタがいる。

 2人ともあり得ないほど整った綺麗な顔で若さもある。もしも、誰かに襲われたりなんかしてこの2人に何かあったらどうやってセバスに顔を合わせろと言うのだろうか。


 覚悟のこもった俺の顔を見たマルコムさんも腹を決めたようでこちらを正面から見据えて答える。


「わかった、やるんだな。報酬は参加者全員に一律金貨3枚、倒した魔物1匹毎に銀貨10枚だそうだ」

 

 最低金貨3枚。物価はまだあまり分かっていないが、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨1000枚で金貨1枚らしい。

 そしてさっき食べたハンバーガーが一つ銀貨1枚。

 

 命を賭ける割には少し安い。だが大金には違いない。


「そんで参加資格はE級冒険者からだ。E級が1番下だから実質誰でも参加出来る。登録自体はすぐに終わるから今から行くか?この話を振った責任ってやつだ、行くってんならあんたを冒険者ギルドまで案内するぜ」


「助かります」


 マルコムさんからの提案を受け入れる。

 ふと周りを見ると、話に夢中になり過ぎていつの間にか俺以外みんな食べ終えていたようだ。正確にはセレクタだけは半分くらい残してリタイアしていたから食べ終えてはいないのだが。


「セレクタ、お腹いっぱいなのか?」


 そう聞くと無表情のまま、こくんっと小さく頷いた。

 本当にこんな量で大丈夫なのか?アリミナなんか追加で注文して3個も食べてたぞ。

 するとセレクタはこちらにすすっと皿を差し出してきた。


「俺にくれるのか?」


 セレクタが再びこくんっと小さく頷く。

 そうか、ならありがたくいただこう。


「ふぅ、ごちそうさま」


 自分の皿とセレクタから受け取った皿の上にあったハンバーガーを食べ終えると、俺たちは店を出た。




 


「━━━━━ここが冒険者ギルドかぁ」


 建物の上の方には剣と剣を交差させた大きな紋章が描かれており、入り口の上部には見たこともない文字が書かれていた。

 そんな木でできた建物に入ると、沢山の机と椅子の更に奥に受付があるのが見えた。


「ほら、あそこだ。行って来な」


 マルコムさんは受付の方を指さすと幾つもある椅子の一つに座り、アリミナとセレクタもそれに続いて椅子に座った。


「こんにちは!見ない顔ですが、初めての方ですか?」


「ええ、そうです。こんにちは」


 ギルドの中にはほとんど人がいなかった。普段からこんなに少ないのだろうか?

 そう思いながら受付に近づくと、カウンターの奥に座っている元気そうな顔のお姉さんが声をかけてきた。


「普段はもっといるんですがね〜。みなさん明日の準備で忙しいんですよ。もしかして貴方も明日の『大討伐』の噂を聞いてこられたんですか?」


「はい、それで登録をしようと思いまして」


「それではこちらにご記入をお願いします」


 そう言って紙と先端の尖った羽根をこちらに渡してくる受付嬢。

 まずい、どこに何を書くか分からないぞ。何を書くか誘導があるとは思うのだが、そもそもその文字が読めない。あとこの羽根はなんだ?インクが置いてあるからこれを着けて書けばいいのか?


「すいません、どこに何を書けばいいんでしょうか・・・?」


に、貴方の名前をお願いします」


 空欄の一つを指さす受付嬢。ここに書けば良いのか。

 羽根ペンと呼ぶには原始的なそれの先端を、インクの入った瓶に何度もつけながら名前を書き終えた。

 あ、今気づいたけどまずいか?これ。

 書き終えた用紙には漢字で『城崎玖郎』と書いてあった。


「それでは、ここに指紋をよろしくお願いします」


 だが受付嬢は特に気にする様子もなかった。

 大丈夫なのか?


「あの・・・名前はこれで大丈夫なんですか?」


 朱肉のような容器に指を入れ、指紋をつけながら思い切って聞いてみる。すると、受付嬢が答えた。


「ええ、大丈夫ですよ。これは読める読めないではなく、本人を確認するためのものですので!それでは最後に名前を言ってください」


 そうか、これは筆跡と指紋で本人確認をするためのものなのだろう。

 そうして俺は声で自分の名前を伝える。


「城崎玖郎です」


「シロサキ、クロウ様ですね!ありがとうございます。それでは少々お待ちください」




「━━━━シロサキクロウ様、お待たせ致しました。こちらがE級冒険者のプレートになります」


 少しして受付嬢が持ってきたのは長方形の鉄の板。大きめのドッグタグのようなものだった。

 これが冒険者の証か。そこに刻まれた文字を見ると知らない文字が刻印されていたがおそらくこれが俺の名前なんだろう。


「それでは、冒険者ギルドへの登録はこれで終了になります。明日の『大討伐』は・・・」


「もちろん、受けさせてください!!」


「はい、承知しました。いかなる理由があっても『大討伐』の不参加はランクの降格に加えて、E級冒険者ですと6ヶ月の間依頼を受けることが不可能になりますが、問題ありませんか?」


「ええ、問題ありません」


「それでは、明日の10時に王国の北門でお待ちしております」


 よし、これで明日の『大討伐』に参加することができる!






━━━━━冒険者ギルドへの登録を終わらせた後はマルコムさんに武器屋へ案内してもらった。


 弓は『帰らずの森』の単眼鬼サイクロプスの一撃で折れたし、あいつらの目玉を滅多刺しにした短刀は吹き飛ばされた際に何処かへ飛んでいったしで、今現在俺は手持ちの武器が何一つ無い。


 だがしかし武器と同様に金も無い。

 そんな俺にマルコムさんは「明日生きて帰ってきたら返してくれ」と金貨1枚を貸してくれた。

 そうして明日への用意を整えた俺はマルコムさんと別れ、アリミナとセレクタを連れて宿へと戻ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る