謁見したいんですけど

「おお、思ったより早かったな!」


「あれ?マルコムさん?」


 宿から出るとすぐそこにマルコムさんがいた。確かに別れてからそこまで時間は経っていないが、待っていてくれていたのだろうか。


「なんでも話してやるって言っただろ?まだお嬢ちゃん達の所まで連れてきてやっただけじゃないか。あんたらみたいなこの国を知らない奴にこの国の案内をするのも俺たち王国守護隊の役割だしな」


 それはとても助かる。だけど、王国守護隊なんて大層な名前の割にやることがツアーガイドみたいなんだな。

 失礼にもそんなことを考えていると、それを見透かしたかのようにマルコムさんが口を開いた。


「あんた今俺の仕事がただのガイドみたいって思っただろ?まあ、それもあながち間違いじゃねぇよ。俺たちの仕事は基本的にこの国で困ってる人の助けになることだからな。最初にあんたにした『質問』も入国審査の奴らが門から離れられないからって俺らが代わりにやったってだけさ」


 そうだったのか。と言う事は王国守護隊は何でも屋みたいなことをしているのか。そうは言ってもマルコムさんは、腰には剣をつけている。いざの言う時には戦うことも出来る人なんだろう。


「で、あんたら。どこか行きたいところはあるか?この国の中ならどこでも連れてってやるよ」


 マルコムさんが聞いてくる。

 案内してくれるならちょうどいい。


「それじゃあ、この国の王様のところに連れて行って下さい」



「━━━━━━は?」


 マルコムさんが大きく目を見開き、呆気に取られる。


「ごほん、あ〜、すまない。何か聞き逃してしまったようだ。もう一度お願いしてもいいか?」


「え?はい、この国の王様の所に連れて行って下さい」


 再度答えると、はぁ〜とため息を吐きながら呆れた顔をこちらに向けたマルコムさん。


「確かにどこでも連れてってやるとは言った。だがなぁ、流石に入国したばっかのやつが会えるお人じゃねぇよ。悪いこたぁ言わねぇから諦めな」


 そうキッパリ言われてしまった。でも、諦めるわけにはいかない。


「そこをなんとか!」


「いやいや、意地悪言ってる訳じゃねぇんだ。そもそも俺にそんな権限は無いんだよ。アポもねぇ、地位や名声もねぇ、素性も分からねぇじゃどうにもならん。何度も言うが今は『帝国』のせいでみーんな繊細になってんだ。国の外から来たやつが無理に王宮に入ってみろ、下手すりゃ死ぬぞ?」


「そうか・・・」


 そうなのか・・・王様に会えればなんとかと思ったが会うことすら難しいのか・・・

 自分の考えの甘さを痛感すると同時に光明が尽き、目の前が真っ暗になるような感覚がした。


「って、おいおい!そんなこの世の終わりみたいな顔するなって!俺に話してみろよ!そうだ、俺が奢ってやるから昼飯食い行こうぜ!な?」


 ずぅ〜んと重苦しい雰囲気を放ちだした俺に、マルコムさんが元気づけようと昼飯の誘いをしてくれる。

 すると、さっきまで後ろで静かに俺たちの話を聞いていたアリミナがぴょこんと飛び出してきた。


「ご飯なのだわ?お腹、空いたのだわ」


 そうだな、このままここで止まっていても何も始まらない。ひとまずお腹を膨らませて気分を切り替えよう。






「━━━━そうか、俺の案内した宿のせいで金が・・・すまねぇな。何処かの国のお貴族様かと思ったんだが、違ったのか。」


 おいしーのだわ!と言いながらパンに肉を挟んだ食べ物、皆さんご存知ハンバーガーを口の隅にソースを付けながらかぶりつくアリミナ。

 そして隣で一言も話さず、口の先で啄むようにパン、肉、パンと交互にちょこっとずつ食べていくセレクタを横目に俺はマルコムさんにお金がないという旨を話した。


 もちろん、俺たちが何処から来たかは伏せている。聞くと、俺が運び込まれたゴタゴタでアリミナとセレクタは入国審査をなんとかすり抜けたようだがセレクタはともかく、アリミナは『ゴドラゴ帝国』から逃げてきた正真正銘のお姫様だ。

 バレたらどうなるか分かったものではない。


 話を終えると、マルコムさんが顎に手を当てて考え込むような姿勢をとった。


「うーん・・・お金もない、職もないとな・・・そうだなぁ・・・あんた、その体つきだ。ちょっとは戦えるんだろう?」


「確かに、そうだけど?」


 そしてそれなら・・・という顔でこちらに提案した。


「なら、一つだけ心当たりがある。俺のせいってのもある手前、勧めるのはちぃと気が引けるんだが・・・ちょうど明日『大規模討伐依頼』があるんだが、どうだ?」

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