入国
「うぅ・・・」
何度目かの目覚め。俺、何してたんだっけ。もう慣れたものだ。順番に記憶を思い出していき、
「そうだ!アリミナとセレクタはどこだ!!」
自分の守るべき人物を思い出す。
しかし、沈黙。俺の声に反応するものは誰もいない。
ガバリと体を起こすと白い天井に白い壁だけが目に入った。
そして俺が寝かせられているのは白いベッド。
「病室か?ここは」
すると部屋に一つだけある扉の向こうから、足音が響いてきた。だんだんと近づいてきているようだ。足音はこの部屋の前まで来ると、止まった。
誰だ?そう言おうと思った瞬間、扉がガチャリと開けられた。
「━━━━━っ!?お目覚めになられましたか!しょ、少々お待ちください!」
「ちょっと!?━━━━━━行っちゃったよ」
おい、ノックくらいしろよ。ってそうじゃない。あれは白い服を着た女性だった。あれは白衣か?という事はやっぱりここは病院なのだろうか。
━━━━しばらくすると、3人の男が部屋に入ってきた。
彼らは白衣ではなく、軍隊の制服のような格好をしており3人ともガタイがとても良い。
あれ・・・?
そしてぼそぼそと何か3人で話した後、中心の1人が部屋の隅に置かれてあった椅子を動かしてきて俺の前へ座った。
「おはよう、調子はどうかな?」
低く、落ち着いた声で挨拶をする男。
良かった。いきなり複数の強面の男が入ってきたから、このまま何処かへ連れ去られる!なんて思ったけど、そんな事は無さそうだ。
ちょっと安心した俺は口を開く。
「おはようございます。体はなんとか動かせそうです。それよりアリミナとセレクタは?それにあなた達、誰なんです?ていうかここはどこ━━━━」
「まあまあ落ち着け少年。俺たちはお互いのことを知らない。だからまずは自己紹介をするべき。そうは思わないか?」
何故か数秒の間沈黙が流れ、提案した男と見つめ合う。おい、俺にそんな趣味は無いぞ。
男はごほんと咳払いをすると口を開いた。
「そうか、あんたが名乗らないのであればこちらから名乗らせてもらおう。俺は王国守護隊のマルコムだ」
「そういう事なら。僕は城崎玖郎と言います」
マルコムと名乗った無精髭を生やした男は後ろの2人に何かを伝えると、こちらに向き直る。
「そうか、クロウ君。色々聞きたいことがある。それは分かる。だけどこちらの要件が先だ。終わったら話してやるから、手短に終わらせられるように協力してくれ」
「とは言えだ。何も取って食おうとは思っていないさ。今からするのはただの質問だよ質問。それも本来であれば入国審査でするはずのだ。あんたが死にそうで運ばれてきたから元気になった今行うってだけだ」
「最近『帝国』の奴らが四方八方に侵略戦争だのなんだの吹っ掛けてるのは知ってるだろ?だから、あいつらのスパイがこの国に入り込むことだけは避けなくちゃならねぇ」
「『質問』の決まりを教えるぞ。今からあんたがしていいのは肯定だけだ。沈黙は許さない。10秒以内に答えなかった場合、その瞬間から帝国からのスパイと判断してお前を罪に問う。分かったな?」
そうして長々と説明をしてくれた男がふぅと息を吐く。
つまり、俺が今から『ゴドラゴ帝国』のスパイじゃないか質問するってことか。それなら大丈夫そうだ。
「ここまでで何か聞きたい事はあるか?」
「いや、ありません」
そう言うと男はこちらを正面から見据えた。
「それじゃあ、早速始めようか。一つ目、あんたは人間か?」
「ああ」
あまりに初歩的な質問に驚く。当たり前のことじゃないか。
「次だ。あんたは魔物か?」
「ああ」
これ、本当に入国審査でする質問か?
そう思っていると男が後ろの2人と何かやり取りを始めた。
「よし、虚偽看破はしっかりと働いているようだ。それじゃあ、ここからが本番だ」
ああ、良かった。今のはテストだったのか。
って!!虚偽看破って・・・こんなのスパイからしたら反則みたいなもんじゃないか!?
まあ、帝国のスパイじゃないから何もやましい事はないんだけどね。
そうして男の質問が始まる。
「あんたはこの国で悪さをするために来た訳じゃない。そうだな?」
「ああ」
「あんたは何も危険なものをこの国に持ち込んでいない。だよな?」
「ああ」
「あんたは『ゴドラゴ帝国』から来たスパイじゃない。どうだ?」
「ああ」
「これが最後だ。あんたにはどんな理由だろうと
「ああ」
最後の質問を終えた男はまたしても後ろの2人と、今度は長めのやり取りする。
振り返った男はニヤリと気さくに笑うとこちらに手を差し伸べてきた。
「よし。異常は無しっと・・・これであんたは晴れて自由の身だ!ワルドローザ王国へようこそってな!!」
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