そして出口へ
「━━━━おに━━、━━きて━━━━クロウお兄ちゃん!!起きて!!」
なんだ・・・?俺に兄妹はいなかったはず・・・ましてや妹なんて・・・・って━━━━
「はっ!!」
「━━━きゃあ!」
目を開けガバリと起き上がるとアリミナの顔が間近にあった。起きる上がる際にもう少し前に進んでいたら唇と唇が触れ合ってしまっていただろう。
「えっ・・・本当にっ?生きて・・・」
アリミナが死人でも見るような目でこちらをまじまじと見る。
始めは大きく目を見開き驚いている彼女だったが、だんだんとその目の端の方に雫が溜まっていったかと思うとその雫は静かに頬を流れ、地面へと溢れ始めた。
「う・・・うぅ・・・よかっ、・・・いきてっ」
俺の胸へと飛び込んでくるや否や泣きじゃくるアリミナ。一国の王女様が先日出会ったばかりの男にこんなことをしてはいけないんですよ。
だがこれを拒否するのは1人の男としての矜持が許さなかった。静かに抱きしめて頭を撫でてやる。
セバスに続いて俺まで失ったとしたらこんな危険な森に幼気な少女2人きりだ。さぞや怖かっただろう。
頭を撫で続けていると、啜り泣く声が一際大きくなり胸が徐々に濡れていく感覚がした。
泣いているアリミナに感化されて俺まで鼻がつんとしてきたその時、とある事に気がついた。
あれ?手と足が治ってる・・・?アリミナかセレクタにそんな能力があったんだろうか。
それに周りを見るとぽっかりと胴体と頭が削り取られて血溜まりを作っている単眼鬼の死体が4つ倒れていた。本当に俺がこれをやったのか?改めて見るが、相当えげつない有り様だ。あの時のロゼアさんを殺した奴らも同じ目に遭ったのだろうか?
っと、違う違う。血の渇き具合からして、そこまで時間は経っていないようだ。あの負傷は明らかにこんな短時間の自然治癒で治る怪我では無かった。うーむ。
そう考えていると、セレクタが近寄ってきた。
ん、とこちらに向けて手を広げている。相変わらず無表情だがポーズと相まってとてもシュールな光景だ。確かアリクイの威嚇がこんな感じだったような。
ちょいちょいとこっちに手招きすると、アリミナの上に飛び込んできた。飛び込んできたセレクタにサンドイッチにされたアリミナはウッと一瞬苦しそうな声を出したが、すぐにふふっと笑うとなんだか嬉しそうな顔を見せた。
「━━━━ありがとうなのだわ。もう大丈夫なのだわ、クロウお兄ちゃん」
泣き止んだアリミナから感謝の言葉と共に出たのは、謎の敬称だった。
「お、お兄ちゃん・・・?」
「ダメなのだわ?私、兄妹は沢山いるのだけれど。お兄ちゃんと呼んだことがなかったから呼んでみたかったのだわ!ここまで助けられたんだもの、いつまでも様づけはダメだと思うのだわ!歳もそこまで離れていないしちょうどいいと思うのだわ!!」
困惑していると、アリミナが理由をのだわ!のだわ!と話す。どっちかって言うと、様よりお兄ちゃんのがいろいろダメじゃないか・・・?
しかし、ふとセバスが囮になった時を思い出す。あの時あんなにショックを受けていたんだ。だけど今、アリミナはまだ完全に立ち直れていないはずなのに明るく俺を元気づけようとしてくれている。俺が目覚めた時から自分より俺の心配をしてくれていたし、なんて健気でいい子なんだ。
そんなアリミナの申し出を断れるはずもなく、
「いや、いいよ。じゃあ今日から、俺はお兄ちゃんだ!」
そう言うと、アリミナはきらきらと飛び切りの笑顔を見せた。
「よし、それじゃ。早く出発しよう」
アリミナが一応は元気そうになったので、出発の声をかける。こんなことを考えるのは嫌だが、セバスが引きつけた個体がセバスを倒して戻ってくるかもしれない。アリミナとセレクタの安全のためには早くここを離れるに越したことはないのだ。
そうして立ち上がろうとした瞬間だった。
「うっ・・・?」
不意に足から力が抜け、へたり込んでしまった。
今度は近くの木を支えにしながらもう一度立ち上がろうとする。よし、今度はなんとか立てた。
さっきまで座っていたから気づかなかったが、何か体の中の大切な何かが抜け落ちたかのように力が入らない。おまけにくらくらと貧血時のような立ちくらみまでする。
「大丈夫なのだわ!?」
その様子を見たアリミナが心配そうにこちらを見る。
「いや、大丈夫だ。行こう」
正直大丈夫ではないが、無理矢理体を動かして歩きはじめる。
どうしちゃったんだ?俺。心当たりがあり過ぎてどれが原因か分からない。
あの魔法を撃ったからか?それともあんな怪我を負ったから?はたまた、ただの疲れか?
でも2人の安全のためには早く森を出ないと。
そう進もうとする俺だったが、またしてもぐらり倒れそうになる。
「やっぱり大丈夫じゃないのだわ。私の肩を使うのだわ」
そんな俺を見かねてアリミナが自らの肩へ俺の腕を乗せる。
「━━━ッ!あ、ありがとう・・・」
急な接近に一瞬戸惑ったが、すぐにお礼を言う。
動くたびに彼女の首裏に回された俺の腕をさらさらな髪の毛が撫でるのが少々こそばゆいが、そんなことを考えるのは下心のない彼女に申し訳ない。心を無にする。
「んしょ・・・」
すると、それを見ていたセレクタが逆側を腕を同じように自らの肩に乗せる。無表情で何を考えているか分からないが、今はただひたすらにありがたい。
本当に、いい子たちだ。
そうしてゆっくり、だけど確かな歩みの末についに俺たちは辿り着いた。
「やった!やったのだわ!外なのだわ!!」
ああ、ようやく・・・ようやくか・・・
空を見上げると俺たちを祝福してくれているかのように雲一つない晴天だった。
しかし、俺の身体はもう限界に達していた。
「あそこにおっきなお城があるのだわ!きっとあそこがワルドローザ王国なのだわ!!」
そうか・・・城が見えるか・・・もうくらくらして空と地面の色しか分からないや・・・
森から出たんだ、度重なる無理のツケを払え。と神が借金を取り立てて来るかのように先ほどから体が急に重くなってきている。
だが俺はアリミナとセレクタに肩を借りながらも少しずつ歩いてゆく。
「━━━━あと半分くらいなのだわ!頑張るのだわ!!」
そうか、あと半分くらいか・・・まずい・・・足に力が・・・
「━━━━!?━━━━━━━━━!!」
ああ・・・アリミナは何をいって━━━━━━
そうしてまたしても俺は意識を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます