チート
「なんで・・・」
『奥の手』を使いなんとか
どうして!?あいつらのデカい悲鳴が聞こえたから助けに来たのか?それとも、ちょうどこの集落に用があって来るところだったのか?それとも元からここに?
違う!今理由なんて考えてる場合じゃない!!
一度死にかけ死線も潜った身だからか、4人の中で一番最初に冷静さを取り戻したのは俺だった。
セバスはその場で固まり、アリミナに至っては腰を抜かして座り込んでしまっている。セレクタは・・・この期に及んでいつも通り無反応だ。
セバスの肩を強引に揺らし、大声で発破をかける。
「おい!動け!!お前が動かないとアリミナはどうするんだよ!!」
さっきの戦闘と走る姿で確信したが、間違いなくセバスは俺より強い。だから頼む、諦めないでくれ。
「━━━━あ・・・ああ、おかしくなっていたようだ。すまない」
焦点が合い、なんとか正気に戻ったセバス。
すぐに自らの手を広げては握る動作を何度かすると、覚悟を決めたような顔でこちらに語りかけた。
「シロサキクロウ、よく聞け。ここで私が時間を稼ぐ。だから、お嬢様達はお前に任せた」
時間稼ぎ。つまりはそういうことだろう。己の身を犠牲にするつもりなのだ。
そんなのやめて一緒に逃げよう!もしかしたら運良く逃げられるかもしれない!
そう言おうとするが、彼の覚悟のこもった真っ直ぐな瞳に負けてしまって否定する言葉を封じられてしまう。
「ああ、わかったよ」
俺はまた誰かを目の前で見殺しにしてしまうのか。あの時、ロゼアさんがぼろぼろになった時と同じ無力感が俺を責めたてる。
だが、俺がアリミナとセレクタを無事に逃さないと彼の決意すら無駄になってしまう。
「あ・・・あぁぁ・・・」
音のする方を見ると腰を抜かして地面にへたり込んでいるアリミナが、必死にセバスへと手を伸ばしていた。
彼女は従者へ必死に何かを伝えようとするが
「お嬢様、私を拾って下さってありがとうございました。それでは、お元気で」
短くそれだけ言うと俺に何かを投げ、直ぐに走り出した。
その何かをキャッチして手の中を見ると、方位磁針のようなものがあった。『
そうして俺は、あああぁ・・・と、か細い震えた音を機械のように発し続けるアリミナを無理矢理に背負うとセレクタと手を繋ぎ走り出した。
しかし、全ての
一瞬振り返って確認すると、4体の単眼鬼がこちらに向かって走っていた。
セレクタを走らせている分、ただでさえ追いつかれた先ほどよりも更に走る速度が落ちている。
木の影で上手く視線を逸らしながら逃げているが、この調子ではすぐに追いつかれてしまうだろう。セバスが時間を稼いでくれているのに俺が何もしない訳にはいかないよな。
「セレクタ、アリミナと一緒にここにいてくれ。ここから一歩も動かないようにね」
俺は距離にまだ余裕があるうちにアリミナとセレクタを近くの大きな木の影に隠す。セレクタが手を離したくなさ気にしていたが関係ない。無理矢理離すと意を決して前に飛び出す。
グォォォォォォォォォ!!
先ほどからちょこまかと逃げていた獲物が目の前に現れ、歓喜の叫び声をあげる
単眼鬼がこちら猛突進してくる中、俺は落ち着いて空いた両手で弓を構える。
狙いは・・・あいつの目玉ど真ん中!!
シュパッ━━━━
「ギャォォォォォォォォ!!」
矢が狙い通りに
よし!そう考える間も無く射程圏内まで近づいてきた
バガァァン!!
危ねぇ!あんなん喰らったら一発で終わりだ!なんとか真横に体を投げ出して回避するが、すかさず次の一撃が飛んでくる。
「ぐうぅぅぅぅ!!」
回避した先にあった木を盾にして避けるが、木は一撃で粉砕されバラバラになった木の破片が俺を襲う。痛みで呻き声をあげる俺を待ってくれる訳が無くこちらに更に追撃をかける
まずい、このまま攻撃を避け続けても埒が開かない!!なんとかあのデカい目を攻撃できる方法は無いのか?弓を構える余裕はないし・・・こうなったら一か八かだ!!
もう一度木を盾にして同時に飛んできた3匹の攻撃を避ける。今だ!!
俺は全力で一際大きな木に登り出す。
追いついた
バキバキバキィィッ!!
2発、3発と攻撃を避けながら
もうそろそろこの太い木も限界のようだ。ほんと、どうなってんだよアイツらの力は。
限界に到達してぐらりと大きく揺れる大木。
俺は腰から短剣を取り出すと、こちらを見上げる
「やあぁぁぁぁぁぁ!!」
「グギャオォォォォォォ!!」
木の高さと体重を存分に活かした一撃を正面から叩き込んだ俺はすぐさま突き刺した短剣を大きな眼球から抜くと、グサッグサッと何度も繰り返し刺した。
痛みに雄叫びをあげる
そして射程圏内に近づいてきた次の一体向けてそのまま飛び掛かり、
「ギャォォォォォォォォ!!」
同じように大きな眼球に向けて突き刺す。
コイツら、目玉が大きすぎて脳が相当小さいんじゃないのか?そんな事を考えながらも二度とこの瞳が光を見る事のないように念入りに短剣をねじ込む。
そして、最後の1体が俺目がけて走ってくる。よし、これなら行ける!意を決して飛び掛かろうとした瞬間だった━━━━━
「━━━━━は?」
吹き出した単眼鬼の涙や房水、そして血の混じった
そして宙に投げ出された俺の目の前には仲間の仇とばかりに大きな手のひらが近づいてきて━━━━
━━━━━衝撃。息をする間もなくもう一度大きな衝撃。
苦しい・・・息が、出来ない・・・
頭はクラクラしてただでさえ霞んでいる視界が赤く滲んだ液体によって塗りつぶされていく。左目に至ってはもう全く見えていない。
ああ、こりゃダメだな。
見えづらい右目でなんとか
くそっ、最初に弓矢を撃ったやつはもう回復したのか。
だが、もうそれも終わった。体に力が入らない。俺のことは好きにしやがれ。
全てを諦めた俺は
まさか吹っ飛ばした俺を見失ったのか?
そう思った矢先に1匹の単眼鬼が一つの木の前で立ち止まった。
どうしたんだ?あいつ。
そうしてその場に屈んだ単眼鬼は数秒した後、立ち上がるとその手に2つの影を摘んでいた━━━━
━━━━━ッ!?
それだけは、それだけはやめてくれ!!
アリミナとセレクタ。セバスに託された、俺が守るべき2人が
少しも抵抗せず、ただぽたぽたと涙を流すアリミナに単眼鬼が大きく口元を歪ませ嗤う。
クソっ!俺はまた何も出来ないのかよ!!
弓を引いてヤツらの気を引こうにも肝心の腕がもう上がらない。そして、弓自体も真っ二つに折れて俺の目の前に転がっている。
というか、動くのは不運にも首から上だけだ。視界が僅かに残っているのは2人の少女を守りきれなかった俺への罰なのだろうか。
動けっ!動けって!!動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!
おい!止まれ!!俺の命はいくらでもくれてやるから!!神でも悪魔でもいい!クソッタレなアイツらを倒す魔法を!あの時みたいな魔法を使わせてくれ!!
頼む!俺に・・・俺にアリミナとセレクタを守らせてくれ━━━━
━━━━━そうして願いは聞き届けられ、再び奇跡が起こる。
あの時のような光はもうほとんど見えないが、右手に確かな熱が籠っていくのを感じる。
だが、腕が上がらない。折角奇跡が起こったはずなのに。
ここで諦めてたまるか!!
「ゔゔゔゔゔゔゔぅぅぅぅぅぅぅ・・・」
顔を動かして腕を噛んで、無理矢理持ち上げる。
手の先から力の奔流が溢れ出し、右手を中心として暴風が吹き始め、噛んでいる手を落としてしまいそうになる。
絶対に!落としてたまるか!!
顎の力を強め、食い込んでいた歯を腕に突き刺す。皮膚を破った腕から鉄臭い液体が溢れる。だけど、今はこれでいい。
なんとか腕を持ち上げた俺は執念で狙いを定める。
そして限界まで熱くなった右腕から漆黒の弾丸が放たれた。
ギャリギャリギャリギャリィィィイ!!
「グオ━━━━━━」
金属と金属がお互いを削り合うような音に何事か?と振り返った
大きく膨張した漆黒の弾丸はそのまま真っ直ぐ一直線に1番近くの単眼鬼の腰から上を消滅させた後、一瞬その場に止まりギャリギャリィ!と不快な音を立てると次の瞬間軌道を変え今にもアリミナを喰らわんとする一体を消し飛ばした。そしてついでにと言わんばかりに後ろで悶えていた二体も同様に消し飛ばした。
これで・・・大丈夫。良かった・・・・・・
安心すると同時に最後の力が体から抜けて、だらんと右腕が口から滑り落ちる。
そして俺の視界はテレビの電源を落としたかのように真っ黒になった。
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