知るかよ
布の下から姿を見せたのは2人の少女だった。
だから何だと言うのか。死ぬ人物が1人から3人に増えただけだろう。一体のサイクロプスにすら勝てないお前が行って何になる?
俺の胸の内の黒い感情がそう囁く。
その時、1人の少女と目が合った。少女はこちらの存在に気がつくと、表情一つ変えることなくただじっとこちらを見ていた。
「知るか・・・知るかよ」
演劇を観客席で見ていたら突然舞台に飛ばされたような感覚だ。
俺には無理だ。こっちを見ないでくれ。見るな。
これじゃあ俺があいつらを見捨ててるみたいじゃないか。俺が行っても死人が3人から4人に増えるだけなのに。
しかし、俺は少女の視線から目を背けることができずにいた。
そして少女が口を開く。音は聞こえなかったが何となく何を言っているか分かってしまった。
「た・・・す・・・け・・・て」
見てしまった。これが致命的だった。
「ああもう!助けにいくよ!!行けばいいんだろ!!」
震える体を止めるように叫んだ声はサイクロプスの足音にかき消された。
俺はロゼアさんが死んだあの日の怒りを無理矢理に思い出し、原動力とする。
サイクロプスと走る人物の先に少し開けた場所を見つけると、そこへ向けて走り出した━━━━━
「はあっ、はあっ・・・」
まずい。こうなることは分かっていた。
しかし、お嬢様を追っ手から守るためにはここに。S級ダンジョン『帰らずの森』に入るしかなかったのだ。
初めのうちはよかったのだが、1週間ほど進んだところで運悪くサイクロプスの集落に入ったしまったのが運の尽きだった。
そうしてサイクロプスの群れに追われることとなった私はお嬢様達を抱えてかれこれ2時間ほど走り続けている。
ここまでなんとか逃げてきたが、そろそろ限界が近い。足が思うように動かなくなってきており息も乱れている。
━━━ッ!!
危ないっ!
背後から飛んできた棍棒をすんでのところで躱す。
だけど、お嬢様達からあの魔物たちが見えないように被せていた布が吹き飛ばされてしまった。
「ひっ━━━」
肩に乗せたお嬢様が怯える声が聞こえた。
申し訳ありませんお嬢様!
息が切れており話す余裕のない私は心の中で彼女に謝る。
その一方で、もう片方の肩に乗せた人物は無反応だ。気絶しているのか、はたまたいつも通りなのか。まあ、この状況では暴れられるよりマシだ。
後ろを見ている余裕はないが、明らかに私のペースが落ちてきている。
だんだん自分たちを覆い隠さんとするあいつらの影が近づいてくる。そしてついに━━━━
ドォォォォン!!
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
足元に棍棒が叩きつけられて3人の体が宙へと舞う。そして次の瞬間、地面へと落ちる。
「お嬢様!!」
すぐさま立ち上がり、2人の元へと走る。
2人とも気絶しているようだが呼吸はしていた。よかった。
がしかし、サイクロプスに追いつかれてしまった。
もはやここまでか。そう諦めた時だった。
「━━━━━お前ら目ぇ閉じろ!!『閃光弾』ッ!!」
それが聞こえた瞬間、諦めかけていた意識を即座に総動員させてお嬢様達の目と耳を抱きしめるようにして塞ぐ。
グオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!
目を閉じていても分かるほどの閃光が辺りに広がる。そして次の瞬間とても大きく、唸るような叫び声の大合唱が始まった。
「こっちだ!!」
声がした方向に振り向くと、1人の少年が手招きしていた。
敵か、味方か。そう考えることすらせず、私は急いでお嬢様達を再度担ぐと少年の方へと走り出した。
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