パンと干し肉

 魔物に気をつけながら、森の中を地道に歩く。

 木の上を飛んで移動したり、瞬間移動したり、そんなことは少なくとも今の俺には出来ないのだ。


「うーん。これ、どんくらいで出られるんだ?」


 正直、どれだけ歩けば森から出られるのか見当もつかない。実は一日で出られるかもしれないし、もしかしたら1週間以上かかるかもしれない。


「あ〜〜。こんな事なら聞いとけばよかったな・・・・・・」

 

 ロゼアさんが亡くなってから、こんなにも早く彼女に頼りたいと思ってしまった。

 改めてロゼアさんに頼り切りだった事を痛感する。

 しかし、そんなことも言ってられない。

 俺は前へと足を動かす━━━━━

 

 




「━━━━━今日はこの辺にしとくか」


 日が暮れて、元から薄暗かった森に完全な暗闇が訪れる。

 野宿は実際にしたことはないが、幸いロゼアさんから方法だけは聞いていた。

 俺はそれを思い出しながら近くにあった丈夫そうな木に登ると、太い枝の一つに腰を下ろした。

 これだけ高いところなら安全だろう。


「あとは落ちないように・・・これでよしっと!」


 そして不慮の落下を防ぐため、木の幹と自らの胴体を縄でくくり付ける。命綱だ。

 動き辛くて気持ち悪いが、安全のためには仕方ない。


「よし、それじゃあご飯にしよ」


 家から持ってきた携帯食を取り出す。そしてそれを合体させる。

 完成したのは、カチカチのパンに森鹿の干し肉を乗せたシンプルな食べ物だ。


「おお!意外といけるな」


 満足する食事はできないとタカを括っていたが干し肉がいい味を出しており、意外にも美味しくいただけた。

 よく噛む食べ物が好きな性分である俺との相性も良かったのだろう。


「でも、流石にお腹いっぱいにはならないかぁ・・・」


 だがしかし、咀嚼回数でなんとか満腹中枢を誤魔化そうと努力はしたものの一日中歩き続けた体に対する報酬としては足りていなかったようだ。

 でも明日以降の分まで食べる訳にはいかない。最低限に留めないと。


 そして食事を終えた俺はそのまま眠りについた。




・・・・・・どうしてアタシを助けてくれなかったんだい。アンタが強かったら、アンタがもっと強かったらアタシは死ななかったのに・・・・・・





「はっ・・・」


 目が覚めると辺りは明るくなっていた。

 ああ、またか。ロゼアさんがそんな事言う訳ないだろ。そうは理解していても、悪夢は毎日のように俺を責め立てる。

 最後によく寝たの、いつだったっけな。


 憂鬱な気分の中、とりあえず巾着から食料を手に取る。

 昨日と同じ、干し肉を乗せたパンというメニューの朝ごはんを食べ終えると、縄を外し木から降りた。


「あいたたたたたた!」


 固い木の上で寝たせいで尻が痛い。そして背中はガッチガチになっていた。

 ああ、もう既に心が折れそうだ。

 


 そんな弱った気持ちを切り替えるために近くの川で顔を洗う。

 パシャッ!

 冷たい水が刺激となり、脳が覚醒していく。


「よし!今日も頑張ろっ!」


 そうして今日も歩き出すのであった。





「おっ、あそこに初めて見るやつがいるぞ」


 ある程度歩いたところで、少し遠くに熊のような魔物が見えた。

 金属製の兜を被っており、手の先からは一角獣のツノのようなものが3本生えている。


「うわぁ、強そうだなぁ。避けて進もう」


 血舐狼には勝てたが、この森全ての魔物に勝てるわけでないのだ。というか不意打ちであったとしても勝てる魔物の方が少ないだろうと言うのが昨日一日中歩いた俺の見解だ。


 木に擬態している魔物に、重い羽音を立てながら飛んでいる全長1メートルはあるだろう蜂。そして筋骨隆々な牛のような魔物。

 こんなヤバそうな魔物が昨日だけで数十種類確認できた。特に木に擬態していた魔物はちょうど奴が動いている時に発見できたからよかったものの、一歩間違えれば危なかっただろう。

 そういう訳で戦闘を避け、見つからないように魔物の視線を避けながら進む━━━━━





 


━━━━━おそらく正午を少し過ぎた辺りであろう時に異変は起きた。


 ドドドドドドドドドドドド━━━━


「なんだ?何の音だ?」


 突然、遠くから地面を揺るがすほどの大きな揺れが伝わってきた。

 急いで木に登り、音の発生源を確かめる。


「なっ!?サイクロプスがあんなに!?」


 見ると、単眼鬼サイクロプスが横並びになり走っていた。

 今の所この森で見た中で1番強そうな印象を受けた魔物である単眼鬼サイクロプス。それが群れとなって何かを追いかけていた。

 

「おいおいおい、ありゃやばいぞ」


 どうやってもあの数は勝てっこない。一体ですら今の俺では厳しいだろう。


 でも、一体何が追いかけられているのだろうか?

 安全地帯からそれを眺める俺はそう疑問に思い単眼鬼サイクロプスの群れ、その少し先に視線を動かす。


「あれはっ・・・人だ!!」


 なんとそこには両肩に何かを乗せた人物が走っていた!!

 両肩の何かにはそれぞれ布が被せられており、布の下がどうなっているか確認できない。


 とても辛そうだ。てか肩に乗せたあれはなんだ?あれを捨てたらちょっとは楽になるだろうに。

 蚊帳の外から眺める俺は呑気にもそんなことを考える。


 その時、一体の単眼鬼サイクロプスが手に持った棍棒を走る人物めがけて投げた。


 ━━━ッ!!


 飛翔してきた棍棒を間一髪すれすれのところで避ける人物。しかし、棍棒がすれ違った際に生まれた風によって、両肩の荷物を覆う布が宙へと飛んでいく。そこで俺は布に隠されていた荷物の正体を目にした。





━━━━━布の下から姿を見せたのは2人の少女であった。

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