帰還
━━━━白い大広間に突如として円型の『窓』が現れる。しかし、それを目にした人たちはまるで最初からそれが現れる事を知っていたかのように無反応だった。
もちろん彼らはそれを。『
「おお、余の兵が帰ってきたか」
王座の人物は『
するとしばらくして、中からは4人の人物を抱えた白髪の大男と杖を持った男、帝国が誇る天帝十殿堂の第一位と第三位が出てきた。
白髪の男が周りにいた兵士に意識のない4人の人物を投げ渡し、杖を持つ男が王に跪く。
杖を持つ男が報告のため口を開こうとした瞬間、必要ないとばかりに王によって止められた。
「ふむ・・・生き残りは6人か。だが、様子を見るに第一位が居なければ全滅であったな。━━━━━フハハハハ!!アハハハハハ!!愉快愉快!!それでこそ余が認めた友だ!!」
突然狂ったように笑い出し、涙まで流す王座の人物。
これではまるでこちらの戦士たちではなく『伝説』の生き残りの味方のようだ。
「はははは・・・ふぅ。余の精鋭たちよ、御苦労であった。此度の其方らの功績は余の大陸統一を十年は早めたであろう。しっかりと休息を取るが良い」
「はっ!!有り難き御言葉!」
跪く杖の男が感謝の言葉を述べる。
「して第一位よ、余の友は強かったか?」
「無論。一度敗北した身なれば。しかし、此度は我の武が上であったようだ」
直立しながら腕を組んでいる白髪の男はそう答える。
「そうか。これ以上聞くことはない。それでは、解散とす━━━━━━」
━━━━━━気配で『それ』を察知したのは、王と白髪の男だけであった。
何か、来る。
杖を持つ男である第三位が出していた、ほぼ閉じかけの『
門から出現したのは、人の頭の大きさほどの黒い弾丸であった。
音を置き去りにして飛来したそれは、運悪く閉じかけの『
そして次の獲物はお前だと言わんばかりにその先にいた第一位へと迫る。
ギャリギャリギャリギャリッ!!
「なんっ!?ぐぐぐぐぐぐううぅ・・・ふんっ!!」
先んじて気づいていたこともあり、何とか反応できた第一位がそのまま両手で受け止める。
受け止めてなおその勢いを落とさず進む球体に数歩後退りさせられた第一位であったが、力を込め勢いよく真上へと投げた。
━━━━ドッガァァァァァァン!!
天井に穴を開けながらそのまま上へ上へと飛んでいった球体は、カッと大きな光を放つと大爆発を起こした。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
何人かの兵士が叫び声を上げ大広間の外へと逃げる。
ガラガラガラガラ
天井に空いた穴の周りが崩れ、その破片が大広間へと降り注ぐ。
大広間の外、ではなく自ら破片の落下地点へ向かった数名らは自らの盾で受け流し、ある者は自らの拳で落ちてくる破片を粉砕し、またある者は剣で破片を一刀両断した。
嘘のような一瞬の出来事に皆が沈黙する中、弾丸が通り過ぎたその場には第三位の足と落ちてきた瓦礫が転がっており、今起こったことが嘘ではないと主張していた。
「なんなのだこれは・・・!?『最強』の生き残りは魔法が扱えないはず・・・第一位、疾く説明せよ!」
王が破片を一刀両断した剣を鞘へ納めながら、白髪の男へと説明を求める。
「面目ない、我も分からぬ。あの場にはロゼアの他には弱っちい小童しか居らんかった。しかしあの小童は魔力を少しも持たないただの人間だ。我が確認したのだ。間違いない」
「そうであるか・・・」
王は下を向きながら口に手を当て考え始める。
意図的か無意識か、その際ぶつぶつと独り言が漏れていたが聞こえていたものはいなかった。
「ならば彼女を守る兵がおったのか。よしそれで考えよう。幸運にも其奴がちょうど居らん時に襲撃が起こり、異変に気づいたが時すでに遅し。帰ってきた其奴が穴に向けてあの魔術を放った・・・と考えるのが妥当であろうな。奴の人望ならば、未だ余の知らない強い魔術を扱う術士を味方にしていても不思議ではない」
自らの説に納得した様子の王はさらに続ける。
「ああ、そうだ。そうに違いない。あれほどの英雄が護衛1人付けないはずがなかったのだ。『
ひとしきり1人で呟き終えて考えがまとまった様子の王は、すたすたと歩き自らの王座へと戻ると大きく息を吸い込み深呼吸をした。
王は自らの兵へと告げる。
「余の兵たちに余が勅命を下す!一つ、崩れた余の城の天井を修復すること。二つ、先の魔術を使用した術士の情報を探し出すこと。三つ、『黒夜の杖』の適合者を探し次なる天帝十殿堂第三位を見つけ出すこと。四つ、たった今愚かにも逃げた兵を処刑すること。全て早急に取り掛かるように。以上!」
「「「はっ!!」」」
部屋の兵士全員が返事をすると、余韻を残し大広間が沈黙する。
その様子に満足した王が口を開く。
「良い返事だ。それでは、今度こそ解散とする!!」
━━━━━異例である深夜に行われた王による召集が終了した後、帝国城の頂点に立ち下界を見下ろす男がいた。
天帝十殿堂の第一位である白髪の男だ。
彼は腕を組んで仁王立ちしながら、あの戦いの最中の事を思い返していた。
「ロゼアとの死合いに気を取られ気づかなんだが、そういやあの小童・・・あまりに弱き者だのに我の本気の気迫を浴びて気絶しておらんかったな」
そういえばそうだったと思い出す。
確かに今考えてみれば、あの弱さで気絶せずにいられる存在は稀だ。
「始めは存在を感じることすら難しかったが、奴が我に殺意を向け始めてからは我は明確にその存在を感じることが出来ておった」
男は普段から視覚から得られる情報の他に生物から漂う魔力や存在感のようなものを感じ取っている。
あの場では『伝説』の生き残りであるロゼアの存在感があまりにも強大すぎて気にも留めなかったが『
「それ程の殺意があればあるいは・・・いや、彼奴に魔力は無かったのだ」
ならばあの黒の凶弾を放ったのは小童だったのか。その問いは即座に否定される。
奴には一切の魔力も無かったからだ。
したがってそんな事は絶対あり得ない。
過去に殺意だけで我に『敵』と認識させた弱き者が居なかった訳ではない。今回もその類だろう。
そう断じた男は次の召集まで城の天辺で仁王立ちしているのであった。
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