『最強』
ふと、目が覚めた。
外は暗い。
「なんだ、まだ夜か」
もう一度寝よう。
そう思い目を瞑ろうとした瞬間、
バガァァァァァァァン!!
耳を劈くほどの雷鳴が轟いた。
「━━━━━ッ!!なんだ!?っ、とりあえずロゼアさんのところに行こう!」
急いで彼女の部屋の扉を開ける。
しかし彼女の姿がない。
「まさか・・・」
ロゼアさんが危ない!!
弓と短剣を持ち、急いで外に出る。
「どうか無事でいてくれ・・・・・・」
音のした方へと走る。だんだんと金属音や何かが爆発するような音が聞こえるのが、嫌な予感を増長させる。
息を切らせながら全力で走る。
ようやく音の出所へ辿り着く。
そこには鋼鉄の鎧と兜を身に纏い、大きな大剣を手にした人物と5人の知らない人物が対峙していた。
そして地面には胴体が真っ二つにされた死体にぽっかりと胸に大きな穴が空いている死体、頭部の潰れた死体が打ち捨てられていた。
「うっぷ・・・・・・」
「━━━ッ!?来ちまったのかい!」
ふと上半身のみの死体から溢れている臓物が目に入ってしまい吐きそうになる。
すると、それに気づいた鋼鉄の人物が声を上げた。この鎧の人物がロゼアさんなのか。
「ろ、ロゼアさんっ!!大丈夫ですか!?」
「こっちは・・・ごほっ、こっちは大丈夫さ!『ゴドラゴ帝国』の奴らがもう来やがった・・・あんたはそこから一歩も動くんじゃないよ!」
こちらに聞こえる声で応えてくれる。しかしどう見ても明らかに大丈夫ではない。
左腕は鎧が焼け焦げているし腹には鎧を貫通して太い矢が刺さっている。その他にも遠目で見て分かるほどの傷が幾つも刻まれていた。
「がはっ・・・ぜぇー、ぜぇー・・・老いってのは嫌なもんだねぇ。ちょっと動くだけでガタが来やがる」
初めて見る彼女の余裕のなさそうな様子に、胸がざわめく。
「獲物は弱っている!一気に仕留めるぞ!!」
ロゼアさんと対峙している内の大きな盾を持っている1人が号令をかける。
始めに動いたのは宙に浮いている羽の生えた女だった。
ガキンッ!!
ロゼアさんの大剣と一瞬で距離を詰めてきた羽の女の足がかち合う。
「私の爪を正面から受けるなんてやるじゃない!」
「息が切れてるババアと互角なんて、あんたは大したことないね」
「えっ・・・きゃああぁぁぁぁ!!」
ふんっ!とロゼアさんが踏ん張って大剣を振り切る。大剣を掴んでいた羽の女だったが、遠心力に耐え切れず吹き飛んでそのまま大木に直撃した。
「シイッッ━━━!!」
キィン!
「姿と音隠すんなら殺意も隠しな!!」
いつの間にそこにいたのか。
ロゼアさんの死角から長い刀を抜いた小柄な男。
しかしそれは即座に反応した彼女の大剣によって弾かれてしまった。
そして彼女がその隙を逃すはずもなく、瞬時に回し蹴りが入る。
「なにっ!?っぐぅ━━━━」
小柄な男は何度も地面に打ち付けられながら飛んでいくと、泡を吐きながら動かなくなった。
すごい、残りはたったの3人だ!この調子ならこの人数差に勝てる!ロゼアさんはそう思わせるほどの圧倒的力量を見せつけている。
「お二方、時間を稼いで頂きありがとうございます」
声のした方へ振り向くと、トンガリ帽子を被った女が一冊の本を宙に浮かべ、詩のようなものを詠んでいた。
「くっ、魔術士かい・・・撃たせないよ!!」
詩を読みながら無防備に身を晒すトンガリ帽子の女めがけて、ロゼアさんが手に持った大剣を大きく振りかぶって━━━━━投げる!!
「「させるか/させない!!」」
「『
まずは杖を持った男が杖を振る。すると、円形の『窓』のようなものが出現した。
大剣が『窓』をくぐると、まるで元からこの場に大剣など存在しなかったとでも言うように忽然と姿を消した。
━━━━しかし、数秒後。『窓』の裏側が何かに突かれているかのように伸び始める。
「なにぃ!?オレの『
異常なほどに引き伸ばされてついに限界に達した『窓』はビリビリに破れ、再び世界に飛翔する大剣が現れる。
『
「吾輩の盾なら!」
今度は大きな盾の男がトンガリ帽子の女の前へ出て盾を構える。
ゴォォォン!!
大きな銅鑼のような音が辺りにこだまする。
「ごっ・・・がぼっ・・・・・・」
大剣は盾に止まらず、男の身体をも貫いていた。
だがしかし、大剣は男に突き刺さったところでその推進力を失ってしまっていた。
「ありがとうお前たち、おかげで助かったわ。息絶えなさい!『
長い詠唱を終えたトンガリ帽子の女が叫ぶ。
そして女は何かが抜け落ちたかのようにフラリと地面に倒れた。
女が倒れた事で眼前の脅威は全員居なくなった。しかしあの長い詠唱を終えて何もないなんて事あるはずがない━━━━
━━━━その瞬間、この場にあったはずの熱が一気に消失する。
辺りにはとても薄い霧がかかり、そこかしこからパキパキという音が鳴り始める。
何の音だ・・・そう考えるよりも先に、俺は答えを目にすることになった。
ロゼアさんの周りに無数の氷の柱が出現すると、ありとあらゆる方向から彼女を絶え間なく突き刺す。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
「ロゼアさん━━━!!」
砂埃が辺りに舞って何も見えない。
我慢できずに彼女の元へ走る。
「あ・・・あ、聞こえて・・・る・・・よ・・・」
彼女はなんとか生きていた。しかし、砕けた兜から覗く顔は血だらけで、右目は光を失っていた。
そして元から傷だらけだった鎧はほとんどが砕け散り、血で赤に染まった素肌が露出している。
「ロゼアさんッ!ロゼアさんッ!大変、血がこんなに!早く治療しないと!」
「ダメだよ・・・まだ1番ヤバいのが残ってる・・・・・・」
嘘だろ・・・全員もう戦えないはず。
2人の術士も魔術を使用した際に倒れていたよな。
そう思い周りを見渡すがやはり死ぬか気絶しているものしかいない。
血が出過ぎたのか、目がやられたのか、もう敵が居ないことに気づいていないようだ。
「大丈夫です!もう敵はいません早く帰りましょ━━━」
━━━━━━ドォォォォン!!
突然、空から何かが降ってきた。
「ぐうぅっっ!!」
『何か』が着地する際の衝撃波で吹き飛びそうになる。
砂埃が晴れたそこにいたのは大柄なロゼアさんより更に背の高さも体格も大きい、白髪の男だった。
なんなんだ!あのオーラは!?
見ただけで寒気が走り、体の震えが止まらなくなる。
逃げようとするけど足が動かない!
俺には目もくれずに、白髪の大男とロゼアさんが対峙している。
先に口を開いたのはロゼアさんだった。
「ぐ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・久しぶりだね、帝国『最強』」
「ああ、久しいな、『最強』の生き残りよ」
俺の存在に気づいていないかのようにロゼアさんに近づいていく白髪の男。
圧倒的強者の捕食対象では無いと本能が喜びの声を上げているが、ぼろぼろのロゼアさんに対して何一つ助けになれない俺自身に理性が怒りが沸いてくる。
何か、俺にやれることはないのかよ!!
そんな俺を無視して2人は会話を続ける。
「我は常々思っていたのだ。『最強』とは『最たる強さ』、この世に複数は必要ないと。ようやく雌雄を決する時が来たようだ」
「何・・・言ってんだい・・・あんたはあの時負けたじゃないか・・・私達は・・・4人で『最強』なんだよ・・・1人の、それに手負いのババア1人倒して『最強』とは言えないね・・・・・・」
「我は今千年ほど忘れておった怒りを覚えておるのだ。我に倒される前に勝手に死んでいったお前たちに、そして敗北を喫した我自身に」
「そいつは・・・残念だったねぇ・・・あんたは一生私達の影に・・・追いつけないのさ・・・・・・」
「・・・・・・。否、一時の最強など『最強』に在らず。ましてや多数による『最強』など論外。それを今証明してみせん」
「げほっ・・・ごほっ・・・相変わらずその考えは変わらないねぇ・・・」
「我の言の葉は尽きた。それでは、死合おうか」
ロゼアさんは一言も話さずに白髪の男を見る。
それを肯定と受け取った男が咆哮を上げた。
「我の『最強』は世の悉くを斃し尽くす、孤高にして久遠の『最強』。我が武、今この場にて発揮せん!!」
その瞬間、再度周りの空気が変化する!
何もしていないはずなのに体が押し潰される程の重力を感じ、息をするのが難しくなり呼吸が浅くなる。
ダメだ!踏ん張れ!!
意識を手放したくなるのを抑え、必死に耐える。
ぼろぼろで息もままならないはずのロゼアさんはいつの間にか手にしていた大太刀を腰に構えると、腰を大きく落とし居合の構えを取った。
対して白髪の男は素手。左手を前に、右手を大きく後ろに引くと、こちらも腰を大きく落とし正拳突きの構えを取る。
この戦いは、一撃で終わる。
白髪の男はまだしも、ロゼアさんがこの一撃に全てを賭けていることは誰が見ても明らかだった。
「「シィィィィ━━━━━━━━」」
お互いが息だけで相手を斬れそうなくらいに鋭い息を吐く。吐く・・・吐く・・・吐く━━━━━
━━━━━━━そして長く、長く続いたそれに終わりが来る。
2人がその場から消え、その中心で爆発が起こった。
大量の砂と石が俺に襲いかかってきて、目を開ける事ができない。
「どうなった・・・!?」
衝撃と爆風が止み、俺の目に入ったのは━━━━━
━━━━━折れた大太刀と、左胸を腕に貫かれているロゼアさんだった。
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