生き残り

「んん・・・まだ眠いよ・・・・・・はっ!」


 何度目の目覚めだろうか。まずは状況を確認しないと!!

 急いで頭を覚醒させ、まずは手足を見る。

 すると怪我の痕ではなく包帯が目に入った。


「起きたのかい。眠かったらまだ寝てていいんだよ」


 しわがれた、だけど凛々しい声が耳に届く。ロゼアさんだ。


「て、あれ・・・家だ・・・・・・なんで?」


「なんでって、そりゃあアタシがあんたを運んできたからだよ。あんたみたいな実戦経験のないヤツをこんな危険な森に本当に1人で歩かせる訳ないじゃないか」


「そうでしたか・・・よかった。ありがとうございます」


 一気に体の力が抜け、どっと疲れが押し寄せる。

 やり切ったんだ、俺。




 ん?ちょっと待てよ。俺を1人で歩かせる訳ないって・・・・・・ずっと後をつけてたって事か!?

 テンション上がってイタい啖呵切ってた所とか全部見られてた!?ああ、恥ずかしい!!

 徐々に顔に熱がこもっていくのを感じる。


 ぐぅ〜〜〜〜

 

 うわ!お腹までなりやがった!!

 更に顔が熱くなっていく。こうなるともう止まらない。俺の顔は恐らく林檎のように真っ赤になっているに違いない。

 

 それを見てロゼアさんはふふっと笑った後、口を開いた。


「早速だが、あんたが狩ってきた森鹿もじかで料理を作ったんだが、食うかい?」


「もちろんいただきます!!」


 

 いつもの机に並べられたのはステーキやシチュー、ソーセージにミートパイ等の大量の肉料理!!

 席につき、いただきますと言うや否や豪快に、しかし一つずつ味わって食べていく。


「やっぱり、若者の食べっぷりはいいねぇ!昔を思い出すよ」

 

「昔ですか。そういやロゼアさんはどうしてこんな危険な森に1人で暮らしているんですか?」

 

「そうだねぇ・・・あんたになら、話してもいいよ。アタシは元々とある冒険者パーティーにいたんだ。アタシ達はたったの4人でこの大陸を巡りながら、いくつも依頼をこなしてきたのさ」


「冒険者パーティー。そういうのもあるんですね」


「あんた、そういや記憶喪失だったねぇ。この森を抜けて街に行くと冒険者ギルドって施設がある。そこではギルドが出した依頼を達成することで、対価としてお金が貰えるのさ。まあ、一種の傭兵みたいなもんだね。あ、傭兵も説明いるかい?」


「いえ、大丈夫です。なんとか覚えています」


 要するに、冒険者ギルドとは名ばかりではなく中身までファンタジー小説やゲームで目にするような『冒険者ギルド』と同じと言うことだろう。期待に胸が高鳴る。


「それでだ、自分で言うのは小っ恥ずかしいもんだがアタシ達は『最強』と呼ばれていてね。それはもういろんな街や国からひっぱりだこだったよ。沢山の魔物達や悪者達を倒してきた・・・・・・」


 輝く少女のような目でとても楽しそうに語るロゼアさん。その様子に、彼女が若かった頃の幻影を見たような気がした。

 しかし、その表情に曇りが生まれる。


「依頼を達成しながらこの大陸を2周した頃だったね。リーダーが病で死んだのさ。そしてアタシ達は解散した。残った3人はそれぞれの道を進みだしたのさ。」


「それはとても大変でしたね・・・他の2人は今どういった事を?」


「あいつらも死んだよ、老衰さ。アタシには巨人族の血が流れてるらしくてね、人間より長生きなのさ。と言っても、もう見ての通り皺だらけであまり長くはないけどね」


 ロゼアさんは自虐的にフッと鼻で笑うと、寂しそうな表情をした。

 励ましの言葉をかけようとしたが、それよりも先に彼女が口を開いた。


「と、ここまでが私の人生さ。だけどまだここにいる理由は話してないだろう?今『ゴドラゴ帝国』って国が色んなとこに戦争をふっかけててね」


「戦争!?なんで?それはまた物騒な・・・」


「それで傭兵みたいなもんだからって『元』も『現役』も問わずに冒険者ギルドの奴らを金で仲間に引き入れ始めたんだよ。冒険者のヤツらはみんな戦い方を知っているからね。一般人より遥かに戦力になる」


「もしかして、ロゼアさんのところにも?」


「ああそうさ、しかも私は大陸中に名が知れ渡っている『最強』のパーティ最後の生き残りだからね。絶対に仲間に引き入れたかったんだろう、わざわざお偉いさんが勧誘に来たよ。」


「な、なんて返答したんですか・・・?」


「もちろん嫌だって断ったよ。そしたら次の日暗殺者が送られてきてね。あんなの怖くも何ともないけど、周りの人に被害があったら大変だろう?だから人がいないここに引っ越したのさ。ちょうど昔ここを拠点にしてた事もあったしね」


「そうだったんですか・・・・・・」


「そうなのさ。あいつらの話によると、アタシは生きてるだけでちょっとした抑止力になるみたいでね。こんな1人のババアに国がビビるなんてとんだ笑い話だよ」


 確かに彼女の力の一端は初めて出会った時にぼんやりとだが見たことがある。しかし、それほどなのか。

 話をしている内に皿の上の料理を食べ終わった。


「ごちそうさまでした」

 

「おっと食べ終わったかい。それじゃあ、キリもいいし話はここまでだね。ありがとうねぇ、静かに聞いてくれて」


「こちらこそありがとうございました」

 

 そのままお礼をして部屋に戻った。

 昼の戦いと夜の会話の情報過多で脳が疲労を訴えている。今日はもう寝よう。

 やはり疲労が溜まっていたようで、寝床につくとすぐに意識を失った。










 ━━━━━とある大広間

 部屋一面が大理石のような白い石で作られた空間の中心で杖を持つ男が跪き、1人の男が王座に座している。


「第三位、其方の話は真実か」

 

「ええ、本当です。しっかりとこの目であの『最強』の生き残りを見つけて参りました」


「そうか、ならば討伐にかかるぞ。遠征帰りで療養中の第二位を除き、天帝十殿堂は総出で出撃せよ」


 部屋の入り口から王座までの道を挟むように並べられた5対、計10個の豪華な椅子には空席が二つ。8人が座っている。


「総出ですと!?我ら天帝十殿堂は帝国の剣であり盾。全員を国から離れた場所に送るのはいかがなものかと!それにその間、北の化け物はどうなさるおつもりですか!!」


 身に沢山の装飾を纏った大男が見た目通りの大声で王座の主に訴える。

 

「第五位よ、そう興奮するでない。天帝十殿堂が不在であるのは余がなんとかする。北の方も同様に余が直々に相手をしよう。それで問題ないだろう。それとも、其方は余が何故皇帝であるか忘れたのか?決闘状さえあればいつでもこの王座、奪いにきて良いのだぞ」


「うっ・・・」


 王が凄み、大男が気圧される。


「まあまあ陛下、許してあげたら?こいつが頭足りないのはみんな知ってることでしょ」


 今度は背から猛禽類のような羽が生えた女が口を開いた。


「なっ・・・貴様━━━」


「第七位、許す許さないの問題ではない。余はただ事実を述べた迄。皆よ、他に異論はあるか?」


「・・・・・・無いな。ならば第三位よ、半刻後に『帰らずの森』へ向けて『転移門』を起動出来るよう準備を。他の者らは各自支度をせよ」


「「「はっ!!」」」





 1人、また1人と退室し、大広間には王座に座す王のみが残った。


「ふふふ、第五位は余の天帝十殿堂総出が過剰戦力だと口にしたが、そんなはずがないではないか。確実に帰ってくると言えるのは第一位だけであろうよ。古き友よ、貴様が余の精鋭を何人道連れにするか楽しみにしておるぞ」


 自分以外誰の視線も無くなったこの場で王は大きく口を歪め1人笑みを浮かべていた。

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