リベンジ

「いつでもかかってこい!お前ら!!」


「ガルルァァ!!」


 啖呵を切った次の瞬間、挑発の意図を察したのか我慢しきれなかった1匹が走り出す。


「ただ正面から来るやつなんて怖くないんだよ!」


 シュパッッ!!


「ギャンッッ!?」

 

 素早い動作で矢を射ると、狙い通りにヤツの額を貫いた。

 本当に・・・本当に俺の力で倒せるぞ!!

 前回とは違い、狼を倒すことができるという事実に希望が溢れる。


「ガウ、ガウガウ・・・ガウ!ワオーン!!」


 んん?何をしているんだ?

 そう考えるも束の間、1匹が大きな咆哮をあげる。

 すると、木の影や草むらに隠れていた狼が一斉に飛び出してきた。

 

「うわ、9匹か・・・・・同時に来られるのは流石にまずいかも・・・ふんっ!!」


 シュパッッ!!

 シュパッッ!!

 シュパッッ!!

 

「「「キャンッ━━」」」


 努めて冷静に、連続で矢を射る。俺が1発放つ毎に運の無かったヤツが1匹、また1匹と力なく倒れていく。

 だが、数を減らしながらも狼の群れは俺との距離を詰めてくる。


「━━━ガルルァァ!」


 ついに自らの射程範囲に到達した1匹が、大きな口を開けて俺に噛みつく。

 

「くそッ!」


 痛い!!左腕を噛まれた!!

 俺はすぐさま射かけていた矢を弓から離し、そのまま俺の腕を噛んでいる狼の眼に突き刺す!


「ギャッッ!?」

 

 矢尻が眼を貫通し、おそらく脳にまで到達したであろう狼がずりずりと腕から落ちる。

 まずい、左手がやられた・・・・・・だけど、あの時よりは痛くない!!



 

 10匹から5匹、半分へと数を減らした狼の群れだが、確実なる獲物の抹殺へと着実に歩を進めていた。

 先頭の1匹に続いて射程範囲にまで接近してきた狼たちは瞬く間に俺を包囲した。


「リスク無しで撃ち放題のボーナスタイムはおしまいってことか・・・・・・なあお前ら、今からでもどっかいってくれないか?」


「ガウっ!!ガウっ!!グルルゥゥゥ!!」


「やっぱりダメだよなぁ、半分殺しちゃったし・・・やれるか?━━━━━いや、やるしかないか!」


 あの時は手も足も出なかった狼の群れだが、今回は違う。群れの数は半分まで減らせたし、ロゼアさんから貰った『奥の手』もある。いける。

 俺は腰に付けた短剣を見る。右手でそれを鞘から抜いて逆手で持ち、使い物にならなくなった左手を前に出し近接戦闘の構えをとる。

 何処から来る・・・?囲んでいる奴らを順番に睨むようにゆっくりと回転しながらいつでも攻撃できるぞと目で語る。


「「「ガウッ!!」」」

 

 ガブリッ!


「ぐあぁぁぁ!」


 しかし、必然的に生まれる死角から飛んできた2匹に両足を噛まれ、動けなくなる。間髪入れずにトドメを刺そうとする1匹が殺気を撒き散らしながら飛びかかって来た!


 左手を盾にして、噛みつきを受ける。

 痛い!痛い!痛い!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・・・・!!

 脳の訴えを堪えながら、なんとか腕を噛んでいる個体をナイフで滅多刺しにする。

 時間稼ぎは終わったとばかりに、両足を噛んでいた2匹が口を離し一旦距離を取る。


「はぁーー・・・はぁーー・・・ハハ、あはははハハはははははははハはは!!ああ、ヤバい!なんか楽しくなってきた!!おい!早く全員でかかってこいよ!!」


 止めどなく流れ出るアドレナリンによってテンションがおかしくなっている。そういう自覚はあるが、痛みを無視するためにはこうするしかない。

 もう感覚のない左腕からはダラダラと血が流れ続けており、両足は動かすたびに酷い痛みが走る。


 

 獲物はもう満身創痍であると確信を得た狼達が一斉に飛びかかってくる。『奥の手』使うなら今だ!!


「ここだ!!『閃光弾フラッシュ』ッ!!」


 そう叫ぶと革袋から取り出した玉を宙に放り、急いで耳を塞ぎながら屈む。


 カッッッ━━━━━!! 


「ギャウンッッッ!?」


━━━━━僅か0.01秒にも満たない、しかし太陽と見紛うほどの圧倒的な光量が世界を覆う。







 目を開けると、正面から閃光を喰らった狼達がピクピクと痙攣しながら口から泡を吐いて気絶していた。

 それを見て安心した俺は、もう脅威ではなくなったこいつらの喉笛を順番にかき切っていった。

 何事も無かったかのように辺りに静寂が漂う。



「やった・・・やったぞ・・・・・・!!勝ったんだ!!」


 ああやった!勝った!あいつらを倒してやった!

 この世界で初めての命をかけた戦いに勝利した俺は喜びの声をあげる!!


━━━━くらっ、バタン

 不意に足の力が抜け、地面に倒れた。


「あ、れ・・・・・・」


 血、出しすぎたのかな・・・・・・動かないといけないのに・・・・・・意識が━━━━━━





 

 動かなくなった玖郎に、桃色の髪の老婆が近づく。


「気絶しちまったようだね。危険地帯でこれはちょっと減点だがこの戦果を挙げたんだ、大目にみるよ。おつかれさん」


 玖郎を背負うと、老婆はその場から去った。








 そして、さらにこの一連の流れを木の枝の上から眺める男がいた。

 

「こんな危ない森の深くに生きて辿り着ける筈もないくらい弱っちい冒険者がいたから疑問に思って後をつけてみたら、こいつはとんだ当たりを引いたようだ」


「・・・・・・っと危ねぇ、帰ってきやがった。━━━━ああ、良かった。あいつが倒した森鹿もじか血舐狼レッドウルフを回収しにきただけみたいだ。それじゃあ、俺も陛下に報告しに帰るか」


 男は大きな笑みを浮かべると手に持った杖を振る。

 すると、男は誰も元から居なかったかのようにその場から消えた。

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