特訓
「それじゃ、まずは家の周りを百周してもらうよ」
百周。百周か・・・辞めてもいいですか。と、いうか。特訓の提案を受けるの、止めておけばよかった。
家の周りというだけあり、一周の大きさは学校のトラック一周より小さい。だが、百周。
昨日までは希望に溢れていたのに、途端に後悔が押し寄せてくる。しかし、この森は抜けたい。
覚悟を決め、俺は走り出す。
「━━━意外といけるかも。ふっ、ふっ、」
「おや、走り方は流石に知ってるようだねぇ」
「━━━ぜぇ、ぜぇ、やっぱ、ダメそう、です・・・」
「何言ってんだい、まだ12周だよ!ほら、つべこべ言わずに走る!」
「━━━あ、あしが・・・あと、なんしゅう、ですか」
「今やっと半分だね。ほら、姿勢が崩れてるよ!シャキッとしな!!」
「━━━はぁ、はぁ・・・・・・」
「おや、静かになったね。あ!ケツの力抜けてるよ!腹に力入れて!息整えて!」
「━━━ぜぇ、ぜぇ・・・はあ、はぁ、げほっ・・・」
「よし!よくやったね!これで百周終わりだよ」
途中からの記憶が朧げだが、なんとか走りきった。もうこれ以上は足が動かないが、これでようやく待望の武器練習に入れる!
「それじゃあ次はあそこの木のてっぺんまで登って降りてもらうよ。あの木はアタシ20人分くらいあるし・・・これは20本だね」
「えっ」
「えっ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!もういやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その後も様々な地獄の『特訓』が続き、武器を持てたのは夕方に差し掛かるころだった。
「ううっ・・・もう・・・無理・・・森から出なくていい・・・」
「はい、これが今日の夜ご飯だよ」
「やったー!肉だ!!頂きます!うっまーーい!明日からの特訓も頑張る!!」
今日も大量の肉が出てきた。本当に疲れ切った身体によく染み渡る味に脳が溶ける。
この味だけでまた明日も頑張れる。我ながらあまりにも現金すぎるやつであった。
━━━━━特訓を1ヶ月ほど続けたある日、練習の前にロゼアさんが口を開いた。
「そろそろ準備ができた頃合いだね。今日は借りをしてもらうよ。なんでもいいから肉を持ってきな。それを晩飯にするから。もちろん、狩れなかったら晩飯抜きさ」
あまりに突然すぎる宣告に驚く。この1ヶ月間ただ走って、登って、跳んで、それから的を殴って・・・これをひたすら繰り返しただけだ。なのにいきなり狩りを。それも説明も無しで。
「これは突然ですね・・・確かに少しは動けるようになりましたがまだ実戦は練習してからじゃないと・・・」
「いやいや、実戦なんて練習するもんじゃないさ。実際に戦うのが1番だよ。それにあんたが戦うのは人じゃなくて魔物なんだ。どっちにしろ練習相手なんて存在しないよ。まあ、あたしが勝てる見込みは十分って判断したんだ。自信持って行ってきな!!そうだ、餞別代わりにこれをやるよ。これはねぇ━━━━━━━」
ロゼアさんに見送られ、俺は森へと足を踏み入れようとする。
背に弓と矢を背負い、腰には短剣を。そして小さな皮袋には『奥の手』を。
今から俺は『ロゼアさんの庇護下』というおそらくこの森で唯一の安全地帯を抜ける。
そう意識した途端、狼になす術なく蹂躙された記憶が蘇り、足が震え息が乱れそうになる。
「すーー、はーー・・・・・・大丈夫だ。俺はこの1ヶ月、死ぬ気で鍛えたんだ」
が、これまでの努力を思い出しなんとか踏み止まる。
そしてついに俺は森への一歩を踏み出した。
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