ロゼア
「いいんですか!ぜひよろしくお願いします!」
ガバっと勢いよく頭を下げる。断る理由はなかった。
とりあえずこの森を出なければ何も始まらないのだ。
「ああ、いいよ。ちょうどそろそろ話し相手が欲しいと思ってた所なんだ。それに、このババアの経験が若者の役に立てるならそれが1番さ。ほいじゃあ、早速始めようかね」
「もうですか!?噛まれた所、まだ動くには早いと思うんですが・・・」
「んん?まだ気づいてなかったのかい」
老婆が俺に近づき、しゅるしゅると手足の包帯を取っていく。
「あ、れ・・・?治ってる?」
「と、言う訳さ。これなら大丈夫だろうよ」
包帯の下から現れたのは!なんと!!傷跡一つ無いツルツルの足が!!!
嘘だろ・・・間違いなく今後歩けないほどズタズタにされてただろうし、指も何本か食われてた気がする。
やっぱりここには魔法があって日出ずる国、日本じゃないんだろうな。
そんな未知に対する好奇心と寂しさがない混ぜになって押し寄せてくる。
だが今は感傷に浸る時じゃない。特訓だ、特訓。
「本当にありがとうございます!おば・・・・・じゃなくて、おねえさ━━━」
「呼び方なんざババアでいいよ。そういや名前、効いてなかったね。あんた、名前はなんて言うんだい?というか覚えてるかい?」
「はい、名前はなんとか・・・城崎玖郎と言います」
「ふむ?シロサキ・・・クロウ・・・」
「・・・・・?どうかしましたか?」
ふとした拍子に老婆は黙り込んでしまった。そんなに珍しい名前だったのだろうか。
いや、異世界なんだからそりゃあ日本の名前が珍しいのは当たり前か。
「いや、珍しい名前でね。気にしないでおくれ」
「そうですか。流石にババアと呼ぶのは気が引けます。良ければそちらも名前を教えてくれませんか?」
「あたしの名前?名乗ってもらったのに、こっちは教えないのは筋が通らないってもんよねぇ。あたしはロゼアって言うんだ。いつぶりかねぇ。人に名前を教えたのは」
改めて、ロゼアと名乗った老婆を見る。
薄い桃色の短髪に深い皺の刻まれた顔、そして大きく力強い四肢には幾つもの傷跡が刻まれている。
その容貌は、明らかに過酷な戦いを生業としてきた人のそれだ。
「よろしくお願いします!ロゼアさん」
「ああ、これからよろしくねぇ。坊や」
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