第8話

「それで、この遺産をお前は受け取れないわけだ」

「……まあ、それはそうか」


この世界に残る以上、受け取る方法がない。


「というわけで、お前には俺の力の一部を授けようと思う」

「……そんなことできるのか?」

「ああ。俺の権能『色欲』を駆使すれば可能だ」

「…………」


親父の権能って、『色欲』なのか……

俺はシンプルに「なんかヤダな」と思った。


「じゃあ、いくぞ」

「え、ちょま」


親父は手のひらを俺の額に当ててくる。


「ぐっ……」


親父のてのひらから、何かが流れ込んでくる。

純粋な、力の塊。おそらくは、スキルではなく……


「……こんなものか」


やがて、親父は俺の額から手を離した。


「俺の今現在のステータスの四分の一を割譲した。まあ、大体……俺が16歳の時のステータスと同じくらいだな」

「17歳って……親父、その時すでにSSSランクだったんじゃ」


ついでに言うと、姉さんたちのうち何人かはすでに誕生していたはずだ。


「まあそうだな……それで、一つ聞きたいんだが……」

「……なに?」

「アヤカちゃんと……あのアイリスって子、どっちを選ぶんだ?」

「……その質問はもうされたよ」

「……そうか。いや、ちょっと気になってな」


親父はそう言うと、遠くを見つめる。


「……女の子に包囲網を敷かれたら、もう男に勝ち目はない。おとなしく流されておいた方がいいぞ」

「…………」


どんなアドバイスだよ、と俺は心の中で突っ込んだ。


「どれだけ強い力を持ってても、どうせ逆らえやしないんだからな」

「……ああうん。一応覚えておくよ」


そういえば、俺は母さんたちと父さんのなれそめは聞いたことがない。

いったい何があったのだろうか……


「ま、冗談はともかくとして」


……冗談だったのかよ。


「他の母さんたちからのプレゼントを預かってるから、お前に渡しておく」


そういうと、親父は腕輪型のアイテムボックスから三つの品を取り出す。


「これはエルから。俺が持っている腕輪型アイテムボックス……の、改良版だな。……何をどう改良したのかは知らんが」


俺は最後の注釈がものすごく気になったが、受け取って身に着ける。


「中にいろんなアーティファクトが入ってるらしい。……何が入ってるかは知らんが」


なんかいちいち引っかかる言い方だ。あまり会ったことはないが……そういえば、エル母さんはマッドサイエンティストなんだっけか。


「それから、玲奈からは……来栖家に代々伝わる、帝王学の本だそうだ」


親父は軽く広辞苑くらいの厚さがある本を渡してくる。

あとでありがたく読ませてもらうことにしよう。


「あとは、シュライエットからは、ハンカチだ。素材から何から厳選して、さらに魔法でエンチャントされた逸品だぞ」

「……大切に使わせてもらうよ」


俺は受け取って、二つの品を早速腕輪の中へとしまう。


「……ま、こんなところか。そろそろお別れの時間だな」




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