第7話

「この世界に、残る」

「……そう。それがあなたの選択ならば、私は親としてそれを尊重する」


母さんはそういうと、俺を腕の中に再度閉じ込める。


「……ん。さびしいけど……お別れだね」

「…………」


あまり実感はわかないが、俺が生きている間にもう父さんたちを召喚することはできないだろう。

俺たちの召喚、そして父さんの召喚をしたことによって、この世界のキャパシティが限界に近付いているのを、権能を通して感じる。


「……それで母さん。もう一つの質問って?」


俺は別れの悲しみから目を逸らすように、母さんにそう質問をする。


「……ん。アヤカちゃんと……あのアイリスって子、どっちを選ぶの?」

「……え?」


予想外の問いに、俺は狼狽える。


「……ん。アイリスって子はあなたのことが好き。それくらいはわかるでしょ?」


……まあ、それはなんとなく察している。正直アイリスの気持ちを持て余していて、無視していたところはある。


「……ん。どっち選ぶの?母さん、気になるな―」


さっきまでの湿っぽい空気はどこへ行ったのだろうか……


俺は少し遠い目になった。


「そりゃ、アヤカだろ。……ずっと一緒にいたんだし」

「……ふうん。一応言っとくと、あなたにはお父さんの血が流れてる」

「……どんな血だ?」


俺はろくでもない答えが返ってくるような予感がした。


「……ん。複数の女の子を落として囲っちゃう血が」

「…………」


案の定、ろくでもない答えだった。


「……ん。あまり気負うことない。選びたいなら選べばいい。選べないなら……どっちも手に入れちゃえばいい」

「…………」


それでいいのか、母さん……

俺はクズ男の思想を説く母親に脱力する。


「……話は終わったか?」


話が終わったのか、親父がいつの間にか俺と母さんのそばに浮かんでいた。


「……ん。紫雲はここに残るって」

「そうか」

「じゃ、あとよろしく」

「了解」


そういうと、母さんは地上へと降りて行った。


「……さて。積もる話はあるが……ひとまず、先にこれだけ済ませてしまうか」


親父はそういうと、手袋を外す。


「俺が死んだとき、その財産は法的な妻である玲奈と……あと、お前たち子供に分配される」

「……親父が死ぬことなんてあるのか?

「……分からん。最近なんだか死なないような気がしてきた」


親父は真面目な顔をしてそんなことを言った。


「……ともかく、死んだとして、その財産の一部はお前に行くわけだが……まあだいたい、金額換算で一兆円は超えるかな」

「…………なんて?」


どうやら、耳がおかしくなったようだ。

俺は親父に聞き返す。


「もちろん正確な金額なんてわからないが……まあ、一兆円は超えるだろ」

「ええ……」


相続したとしても、とても使いきれる金額ではない。

俺は規格外の親父の資産に、開いた口が塞がらなかった。

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