第6話
「かあさ……むぎゅっ」
上空へ来ると、母さんはぎゅっと俺を抱きしめる。
「……ん。無事でよかった」
「……母さん」
俺は少し気恥しかったが、母さんを抱きしめ返す。
しばらくそうして抱きしめたのち、母さんは俺を解放した。そして、俺の瞳をじっと覗き込んでくる。
普段は眠たげな目が、珍しく大きく開き、電光に照らされて紫に美しく輝く瞳が露出している。
「……封印が、ほとんど解けちゃってるね」
「封印?」
「……ん」
母さんはぱちり、と指を鳴らす。その瞬間、かしゃあん……と金属が粉々に割れるような音が俺の脳内に響く。
「ぐっ!?」
俺は思わずよろめく。まるで、世界のチャンネルが切り替わったかのように、ここがまるで異世界のような……そんな感覚に襲われる。
「……ん。紫雲……あなたは私たちの子供の中でも、最も異常な子供だった。一つは、その瞬間記憶能力。もう一つは私より強い、直感」
「直感……」
俺は最近、なんの根拠もなしに何かを確信することが多かったな、と思う。
「私と若くん……それと、玲奈で話し合って、二つのうち『直感』を権能で縛ることにした」
「……そんなことしてたのか」
「……ん。具体的には、あの事件のあと。あなたが生きにくくないように。何もかもに敏感でないように」
強い力が傷つけるのは、いつだって持ち主だ。
母さんと親父なりに、俺のことを想ってくれたのだろう。
「……ん。でももう封印はいらない。たとえ強すぎる力があっても、あなたにはもう支えてくれる人がたくさんいる」
「……母さん」
母さんはそういうと、頭をなでてくる。
「……ん。ところで、紫雲には聞きたいことが二つある」
「……二つ?」
「ん。一つ目は、この世界に残るか、元の世界に帰るか」
いきなり究極の選択を突き付けてくる母さん。
……さて、どうしようか。
「この世界はまだ広い。発展する余地はたくさんある。国を興すことも、最強の冒険者として名を馳せるも、あるいは一市民として生きることも……なんでもできる」
「……うん」
「元の世界に帰れば、あなたは若くんの……『天翔』の後継を目指すことができる。あなたの『権能』の可能性は無限大だから」
「……『権能』?」
聞きなれない言葉だ。
「……ん。スキルとは全く違う、世界の法則から外れて自らの望みをかなえる力。それがあなたにはある」
「全く感じないけど……」
「ん。まだ目覚めたばかりだから」
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シュン
属性:なし
権能『魔術師』
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『魔術師』……
俺は頭の中で其の文言に触れてみる。
「これが……俺の力?」
「……ん。そう。私たちと同じ、権能の所持者……あなたはそれになった。多分、それがなければ私たちの召喚はできていなかったはず……それで、どうする?」
このままこの世界にとどまるか、それとも元の世界にみんなで帰るのか。
二択をつきつけてくる母さん。しかし、俺の答えはもう決まっている。
「俺は……」
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