第5話
「シュン!」
と、真ん中にいた少女が駆けてきて、俺をぎゅうっと抱きしめる。
「……アヤカ」
俺はアヤカを抱きしめ返す。
何をしてでも会いたかった人。それでも会うことを諦めた人。
彼女を連れてきたのは……
「久しぶりだな」
「……親父」
日本最強……いや、世界最強の探索者。『天翔』来栖翔。俺の親父だ。
いつもダンジョンへ潜る時に使っている黒い戦闘服を身につけている。
ただ立っているだけなのに、圧力がすごい。さっきまで荒ぶっていた魔王が凍りついたかのように動きを止めている。
そして、その横にいるのは『天翔』の相棒にして俺の母親……『紫電』星野澄火。
眠たげな瞳はそのままだが、眼光はいつもより鋭い。
「元気してたか?」
「……俺が呼んだのは、親父一人だったはずだが」
「ああ、俺の権能で一部機能を書き換えただけだ」
相変わらず出鱈目すぎる。
いくら親父でも異世界のテクノロジーは扱えないと思っていたが……少し舐めすぎだったようだ。
「一応、アヤカちゃんは永続でこっちの世界に紐づけたが……戻すか?」
「えっと……」
「や。もう離れないから」
俺の腕の中からそう主張する綾華。
「……俺も離れたくない」
俺はそう言って抱きしめ返し、綾華を安心させるように頭を撫でる。
「そうか」
親父はそういうと、左右の手に刀を召喚する。確か、炎刀・氷刀だっけか。
そして、背中に三対の羽を展開する。面と向かっては言えないが、どの翼も美しい。
「さてと……片付けますかね。澄火、防御は頼む」
「ん、若くん、任せて」
そういうと、母さんは紫の電光の結界を生成する。
「安心しろ。これは戦闘ではなく……ただの駆除だ」
一瞬ののち。親父の姿と魔王の姿が掻き消える。
「……どこへ?」
「ん、上」
母さんは親父の動きが目で終えているのか、上を指差す。
「凄まじいですね」
いつのまにか戻ってきていたアイリスがそう言って上を見上げる。どうやら、母さんに傷を直してもらったようだ。
ただ、服があちこち破れているのでかなり目の毒だが。
「……ん。もう終わり」
いつのまにか、魔王の体が八分割されていた。
そしてそれぞれが青い炎で焼き尽くされていく。アイリスも苦戦していた魔王が、まるで雑魚扱いだ。
「…………」
アイリスは静かにショックを受けている様子だ。それを見て、母さんがフォローを入れる。
「……ん。仕方がない。ダンジョンで無限も強くなれる私たちの世界と、この世界では差がありすぎる」
「そう、ですかね」
アイリスは納得していない様子だ。
「……ま、こんなとこか。紫雲、俺たちが戻るまでそれくらいの時間を設定している?」
「一応、一時間」
「なら余裕だな。俺は少し彼らと話しているから、先に母さんと話しておいてくれ」
そういうと、親父は背を向けて、勇者パーティの面々と何やら話し始めた。
「……ん。紫雲、ちょっとそこまで」
母さんはそういうと、俺を綾華の腕の中からひょいっと取り上げると、上空へと俺を誘った。
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