第8話

王女様……アリステルは、自室にいるらしい。


俺たちは誰もいないがらんとした城内を進む。どうやら、兵たちはみんな外で戦闘しているか、あるいは逃げ出してしまうかしたらしい。


俺は王女様の自室のドアをノックする。しかし、誰も応答しない。


「……室内からは、人一人分の気配しかしませんね。おそらく、タリヤはいないようですよ」

「なるほど」


逃げたか……あるいは裏切ったか?

少し強引だが、俺は扉を開いて奥の部屋へと向かう。


「……どうされましたか?」


と、王女様が窓の外を眺めながらそう言って振り向く。

俺はしかし、窓の外の景色に目を奪われていた。


「城下町が……」


城下町が、赤々と燃えている。火事場泥棒の仕業か、あるいは革命軍の仕業か……おそらく、そのどちらもだろう。


「ええ。歴史ある街ですが……また再建しなくてはなりませんね」


哀愁をまとった表情で、アリステルはそう呟く。


「逃げないのですか?」

「ええ。逃げたくても逃げられないでしょう」


アリステルはそう言って窓の外を指さす。

そこでは、見覚えのある六人の少年少女が、最後まで抵抗を続けている王国軍近衛隊と交戦していた。


近衛隊は腐ってもこの国のエリート兵であり、そこそこの実力を有しているはずだが、少年少女たちは近衛隊を圧倒しているように見える。


「……俺たちならば逃がすことができますよ」


しかし、こちらにも俺やサン、リア、アラタ……そして何よりもアイリスがいる。

アリステルを逃がすことくらい、わけないだろう。


しかし、アリステルは首を振った。


「逃げ出して、どうなります?わたくしは王女としての生き方しか知りません。それとも、あなたがわたくしに、王女以外の生き方を見つけてくださいますか?」

「…………」


アリステルの問いに俺はうなずくこともできた。しかし、俺はどうしてもできなかった。俺は所詮、この世界の人間ではない。この世界の人間に責任を持つことなど、できやしない……


「たとえ望まぬ子を産み続ける羽目になろうとも、わたくしはこの国の

「……ま、そこまでだわな。他人の生き方を強制する権利なんて、お前さんにありゃあしないのさ。特に、この世界の人間になることを迷っている人間にとっちゃ……な」


アラタの言葉に、俺は返す言葉もなかった。


「この国から離脱しましょう。いいですね?」


アイリスはそういって黒白の力を纏う。


「…………」


俺はしかし、後ろ髪を引かれていた。

何か……何か、見落としているような気がする。王女のではなく、を……


俺の頭脳がフル回転する。


「アリステル……あなたの属性は、なんですか?」


俺はアリステルにそう問いかける。

すると、アリステルの身体がさっとこわばった。

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