第6話
そして、二週間がたち、俺たちは一つの結論に達した。
異世界への魔術による渡航は不可能だ。
以下に、その理由を説明する。
まず、俺の元居た世界を特定することは簡単だ。俺が元の世界から持ってきた(というより必然的に持ってくることになった)衣服に紐づいた世界の情報を抽出すればいいだけだからだ。
俺たちはそれをもとに、魔術陣を開発することに成功している。
そしてあとはそれを起動するだけなのだが……ここで、一つの無理難題が立ちはだかる。
それは、魔力だ。
異世界への扉を開くには、膨大な魔力量……そして魔力の瞬間出力を必要とする。俺たちの試算によれば、人を一人転送するために、この世界でおそらく最も魔力が高いアイリスが大体四百人は必要になる。
希少属性である『転移』、もしくは『根源』の所有者がいればかなり軽減することができるのだが……俺たちにそのあてはない。
勇者召喚は、この魔力の問題を、被召喚者を特定しないという縛り、そして、人を魔力に還元する……言い換えれば、生贄として使うことによって解決しているようだ。
しかし、俺たちはその方法を使う気はさらさらない。
ゆえに、現段階では異世界への渡航は不可能である、というのが現時点での結論である。
「……何もする気が起きないな」
俺はその結論に至ってから、図書館でダラダラと本を読んで過ごしていた。
「もう諦めたの?」
「……まあ、そうだな」
と、ダラダラと過ごす俺にサンが話しかけてくる。
「アヤカだっけ?その子にあうことも?」
「…………」
サンは的確に痛いところを突いてくる。
本音を言えば、決してあきらめたくなどない。
「……実を言うと、生贄を使う以外に一つ、俺が元の世界へと戻る方法が一つだけ存在する」
「へえ」
「それは、元の世界から俺を召喚してもらう、ということだ」
まあ、子供でもわかる単純な理論だ。
こちら側からいけないのであれば、召喚してもらえばいい。
「そのあてはあるのかしら?」
俺は言葉を選びつつ、サンに答える。
「ないこともない。親父か、あるいは母さんたちなら、世界の法則を歪めて俺を召喚することも可能……かもしれない」
「……あなたのいた世界って、魔法とかないんでしょう?そんなこと可能なのかしら?」
サンは図書館にあった、俺たち召喚者の出身世界についての本を読み漁ったらしい。
ただ、俺たちの世界は20年ほど前に激変したのだ。
世界中にダンジョンと呼ばれるものが出現し、様々な変革があった。
俺の父親はその中で、『天翔』と呼ばれる最強の探索者として名を馳せている人間なのだ。親父なら、俺を召喚することも可能……かもしれない。
「まあ、望み薄ではあるがな」
「……そ」
サンはそっけなくつぶやくと、自身も読書へと戻っていった。
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