第5話

重そうな扉を開き、アイリスと共に禁書庫の中に入る。

広々とした図書館とは対照的に、禁書庫の中はとても狭い。


「なんか、見たこともない言語の本が多いな」


表紙に表記されている文字がすでに未知の文字だ。

この世界の言語ははるか昔の勇者の功績で日本語に統一されているので、統一される前の書籍であるか、あえて別の言語で書かれたかのどちらかだろう。

試しに中を開いてみるも、何が書かれているのか……何について書かれているのかさえ分からなかった。


「どうしたものかな……」

「これでも百年以上は生きていますから、ある程度であれば読むことが可能ですよ」


アイリスはそういうと、ひょいっと俺がぱらぱらとめくっている本を読む。


「この本は、歴史書のようですね」

「歴史書?なんでそれが禁書庫に?」

「それは、この国の暗部が記されているからですよ。建国から……大体数百年でしょうか。反対派の粛清、貴族の横暴な行為、闇から闇へと葬られた数々の歴史が記されています。心ばかりの暗号化はされていますが……よく見る暗号なので、もはやそのまま読むことさえできますね」


俺はそっと本をもとの位置に戻した。

流石は禁書庫。読むことさえ危険な本がたくさんある。


というか、これが革命軍の手に渡ったら、だいぶまずいことが起きそうだ。まあまさか、禁書庫の中の本が革命軍の手に渡るなんてことはありえないとは思うが。


「……異世界に関する本となると……これとこれ、それからこれでしょうか?」


アイリスは三冊の本をピックアップする。


「一冊目は、勇者召喚の方法について。そして二冊目は、異世界の存在の知覚と特定について。そして三冊目は……転移魔法とその限界について、ですね」


三冊とも俺が知らない言語で書かれている。特に、勇者召喚の本に関しては厳重に暗号化されているのか、見たこともないほどに複雑な文字が多数連なっている。


勇者召喚を決して乱用させないという、作者の強い意志を感じた。


革命がおこるまで、おそらく幾ばくも無い。それがどういう経過をたどるのか、あるいはどういう結末を迎えるのかはわからないが、少なくとものんびりと研究している余裕はなさそうだ。


「サンとリアには図書館の中の本を読み漁ってもらう。その間に、俺たちはこの三冊を元に転移魔術の確立を目指そう」

「わかりました」

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