第2話

「……冗談はともかく、どうだ?王女への士官、やってみるかい?」


老人はそう言ってこちらを見る。

しかし、隣のアイリスが俺の上着の袖をくいくいと引いて、アイリスには珍しく反対意見を口にする。


「やめておいた方がいいと思いますよ。十中八九、革命に巻き込まれます」

「革命……」


元の世界では軽く扱われていたような気がする言葉だが、この世界では重い言葉である。

何せ、一国の政治体制が一挙にひっくり返るのだ。

その時に起こる混乱は、非常に大きい。

そして、アイリスにリア、サンという大きな力を持つ三人がいることによって、その混乱がさらに大きくなる可能性はある。


ただ……


「……いや。やってみるよ」


俺はそれでも、アイリスの言葉に首を横に振った。


「アイリスがいれば武力はどうにかなる。それに、いざとなれば、尻尾を巻いて逃げ出せばいい」

「……そうですか。では、そのようにしましょう」


アイリスは食い下がることなく、俺の上着の袖を離した。


「サンとリアもそれでいいか?」

「……ん。王族の図書館……楽しみ」


リアは無表情だが、目をキラキラと輝かせている。


「うーん……」


反対に、サンは歯切れの悪い返事をする。


「一ヶ所に留まるのは……少し心配ね」


どうやら太陽教団のことを心配しているようである。

確かに、まかり間違って王城に襲撃でもかけられたら、その時点で革命が勃発するだろう。太陽教団は政治不介入を謳っているようだし、あまり考えにくい事態ではあるが……


「……ま、大丈夫でしょ。何かあっても、シュンがどうにかしてくれるのよね?」

「……まあ、努力はする」

「なら、私もついていくわ」


サンはそう言って朗らかに笑った。


「なかなか人望あるんだな?シュン」


老人は揶揄うように言うと、ニヤリと笑う。

不思議と嫌味のない笑みだった。


「ああ、言い忘れていたな。俺の名はアラタ……トシマ・アラタ。人呼んで、『悠久の剣聖』だ。よろしくな、シュン」


アラタはそういうと、しわくちゃの手を差し出してくる。俺はそれを握る。すると、かなり強い力で握り返された。

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