第13話
手紙に書かれていた住所をもとに、俺たちはリアの母親が住むという家へと向かった。
閑静な住宅街の一角にあるその家は、アイリスが暮らしていた小屋より少し大きく、四人家族が暮らせそうな大きさだった。
この世界の家には、防犯のためか、基本的に表札がない。カラカラと呼び鈴を鳴らすと、一人の女性が庭から出てきた。
どこかリアの面影を感じる、幸薄そうな女性は、俺たちと対峙すると口を開く。
「何用ですか?」
「……この娘の……リアの母親ですね?」
「……違います」
俺の問いに、一拍置いて女性はそう返答する。
「……え?」
「話はそれだけですか?では、失礼します」
戸惑う俺をよそに、女性は冷たくそういうと、家の中へと去っていく。俺は呆然とそれを見送ることしかできなかった。
リアはぎゅっと俺の手を握ってくる。
「……えっと。人違い、か?」
と、リアがふるふると首を横に振る。どうやら、あの女性が母親で間違いないようだ。
「……どうしたものかな」
あまりこの都市に長居もしてられないが、かといって放置もしてられない。
「とりあえず、明日また来てみよう。それでダメだったら……」
「ダメだったら?」
「次の目的地に向かおう」
「そうね」
俺たちは宿に戻るべく、くるりと後ろを向く。
そんな僅かな静寂の間を、背後からのきゃーっという絹を咲くような悲鳴が切り裂いた。
これは……リアの母親の声だ。
「……アイリス、サン!」
俺は駆けつけようとするが、アイリスがぐいっと俺の袖を引っ張って押し留める。
「何をする気ですか?」
「何って……助けに……」
「赤の他人でしょう?」
と、俺はそこでアイリスが怒りの感情を浮かべていることに気がついた。
「……いや。リアの母親だ」
「母親であることを彼女は拒否しました。であれば、もう母親では無いですよ」
冷たくそう言うアイリス。俺は彼女を説得する言葉を持ち合わせていなかった。
代わりに、リアが揺れる瞳で俺の目を見て言った。
「……あの人を、助けてあげて」
「リア」
「……あんなでも、母親だから」
「…………仕方ありませんね」
ふっとアイリスの姿が掻き消える。
次の瞬間、左手に一人の黒服の男を、右手にロープでぐるぐるに縛られたリアの母親を抱えたアイリスが家から飛び出してきた。
アイリスはペイっとそれらを地面におろすと、苛立ち紛れに黒い釘をいくつも生み出し、男の太ももに容赦なくブッ刺した。
「〜〜〜!!!!」
男の口から声にならない悲鳴が溢れる。
その後もブスブスと八つ当たりのように釘が打ち込まれていった。
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