エピローグ
「何も吐かないつもりですか?」
俺はアイリスの言葉に慌てて我に帰り、指摘する。
「そもそも何も聞いてないからじゃないか?」
「……そういえばそうでしたね」
短い付き合いではあるが、アイリスは意外と短気で、また怒ると後先考えず突っ走る癖があるのはなんとなく把握している。
俺は男のそばに歩み寄り、できるだけ優しく声をかける。
「……もう刺すことは無いと思うので、安心してください。所属と目的を聞いてもよろしいでしょうか?」
「し、所属はあ、暗殺ギルド、も、目的はその女の娘の娘の居場所を探ることだ」
よほどの恐怖を味わったのか、男はどもりながらも慌てて自白をする。
やっぱり目的はリアか。探る、ということは母親に危害を加えるつもりはなかったということか?いや、というよりは……
「もがっもがもがもがっもがっ!」
と、縛られたリアの母親が暴れ出す。
「魔術『風斬』」
俺は魔術陣で魔術を発動し、リアの母親を縛る縄を切る。
「やっぱりそうよ!あんたが生まれたから、私の生活は壊された!あんたなんて……」
生まれてこなければよかったのに。
そう言い募るリアの母親に、アイリスが目尻を釣り上げる。しかし、リアがそれを引き留めた。
「……そんなに私が憎い?」
「…………」
リアの母親が言葉を詰まらせる。
「……憎いわ」
「…………そう。なら、私をあなたの中から消す」
リアは呟くと、小さな手のひらを母親へと向ける。
「時よ、戻れ」
リアは小さくそう呟く。その瞬間、リアの母親の容姿が大きく変化した。
「…………ここは?あなたたちは誰?」
顔のしわが消え、失われていた正気が一気に回復している。
「……どうなってるんだ?」
「……時間と引き換えに、時を戻した。まだ、私を産んでいなかった頃に」
リアは哀しげな目になるとそう言った。
「その間にあった記憶は全て消える。私のせいで奪われた人生を、回復させた」
か細い声でリアはそう呟く。
俺はぎゅっとリアを後ろから抱きしめて、頭を撫でる。惜しみない愛情を父親と母親たちから受けて育った俺には、今のリアの気持ちを理解することはできない。
それでも、リアの寂しさを癒すことはできるはずだ。
「……ん」
リアが俺に頬を寄せ、すりすりと甘えるように擦り付けてくる。
「……あ、あなたたち、誰ですか?」
「……赤の他人。そこがあなたの家。さよなら」
戸惑う母親に言葉少なにリアはそう言うと、俺たちの手を引いて都市の門へと歩き出した。
十年以上の記憶が吹き飛んだので、適応にはかなり困るだろうが……まあ、知ったことではない。
アイリスが黒服を回収し、ぶん、と思いっきり放り投げる。漫画のように空の彼方へと男は吹っ飛んでいった。
「行こうか。俺たちの次の目的地へ」
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