第9話 ゴブリン

数日後。俺たちは森の中を走っていた。今回の旅は、森を突っ切って最短距離をエンジェルへと進むことになっている。


「…………」


十歳児であるリアは、俺に肩車するように座り、俺の頭に乗っけた本の世界に没頭している。時折り枝葉が体を掠めるようだが、あまり気にする様子はない。


「魔獣の気配がしますね」


アイリスはそういうと、サンの首根っこをつかむと、樹上へと飛ぶ。


––––魔術『クラウドバースト』


俺は足元に魔術陣を展開し、アイリスを追う。


「ここからは樹上を進みますよ」


そう言ってアイリスはぴょんぴょんと魔獣の気配がするほうへと進んでいく。

結構な高さがある上、命綱などないため、足がすくむ。俺はなんとか下を見ないようにしながら、慎重に慎重に枝から枝へと飛び移る。


そして、俺たちは魔獣の巣へとたどり着いた。俺は脳内の魔獣図鑑をぱらぱらとめくり、目の前の魔獣の情報と照合する。


「ゴブリン、か?」

「そうですね」


と、リアがぺしぺしと俺の頭を叩く。読めという事だ。


「読み上げるぞ。……ゴブリンは、魔獣の中で最も数が多く、凶悪な魔獣である。緑色の小さな体躯が特徴だが、稀に別の色や大型の個体が存在する。壊滅させられた都市・村・開拓団は数知れず。雑食であり、繁殖能力が高く、あっという間に数が数十倍へと膨れ上がる。村落に似た巣を作り上げ、そこで繁殖を行う……ってところかな」

「…………ん」


満足したのか、リアが頭を撫でてくる。

俺が瞬間記憶によって多数の本を記憶していると知ったリアは、今のように本を読み聞かせするようにせがんでくるのだ。


ちなみに、リアのために原文からは一部削った。例えば、「人間の女性を苗床にする習性がある」などである。


目の前では、緑色のゴブリンが鼻をほじりながらあたりを見回している。


「アイリス、巣の位置は」

「こちらですね」


と、アイリスが方向をさし示す。俺たちは樹々を飛び移って移動し、ゴブリンの巣が見渡せる位置にまで来た。


ゴブリンはかなり知能が高いらしく、簡易的な古屋がいくつも作られていた。


と、サンが顔を顰める。

視線の方向を見ると、苦悶の表情を浮かべる全裸の女の死体があった。股には引きちぎれたような穴がある。俺はもはや何が起きたか想像するらしたくなかった。


「……サン。やっていいぞ」


一刻も早くこの胸糞悪い光景とおさらばしたい。サンの位階をあげるのにも絶好の機会だ。


「……分かったわ。太陽魔法」


サンは上に手を掲げる。まるで太陽のように輝く火球が、上空に出現した。

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