第8話 逃走

宿屋を出て、俺たちは足早に都市の門を目指す。至る所に衛兵がいるが、人混みに紛れて堂々と過ごしていれば特に声をかけられる事はない……とは、アイリスの談である。


昨日のうちに買い物を済ませ、冒険者ギルドで依頼の受注も済ませたのでもうこの都市に用はない。


このまま門を抜けられるか……と思った矢先。


「見つけたぞ!」

「……げっ」


赤い装束の集団がこちらへ走ってくる。サンは顔が割れているからとアイリスのように大きなフードを被っていたのだが……なぜ分かった?


「待て!」

「太陽の下で我々から逃げられると思うな!」

「お前の目撃情報を洗えばすぐに辿り着く!」


ああ、なるほど。ローブを買った店からデザインが割れたらしい。

俺は職業意識が欠片も感じられない情報漏洩に苛立ちを覚えつつ、手元で魔術を発動させる。


すると、赤い装束の集団はなぜか道路脇の商店の壁に次々と衝突し、折り重なるようにして倒れていく。

それがさらなる大規模な衝突を引き起こし、もはや目も当てられない大事故と化している。


「……えっと」


アイリスとサン、そしてリアの目までもが点になっている。突然起こった大事故に、道路上では大変な騒ぎが起こっている。


「この隙に行くぞ」


俺はそう囁いて、門へと走る。


「待て!」

「ちょっと!このまま放置して行く気じゃ無いでしょうね!?」

「それはあとでどうにか!」

「ねえねえ、一体あなたたち何者なの?」

「それは……」


注目を浴びてしまったせいか、市民に引き止められている。


「一体何が……」

「……魔術『蜃気楼』と『風音』の組み合わせだ」


本来はイタズラに使われるような小規模な魔法だが、俺の「カメラアイ」と組み合わせればかなり精巧な音と映像が作り出せる。


とはいっても、あくまで子供騙しにすぎないので、使える場面はかなり限定されるだろうが……


俺たちはなんとか教団の追跡を振り切り、都市の門へと辿り着いた。

暇そうにしている門番に、俺は冒険者カードを取り出して都市を出たい旨を伝える。


「……都市で怪しいフードを被った女が手配されているが」


と、門番はアイリスとサンのフードに手を伸ばす。アイリスはその手をつかむと、そっと金貨を四枚ほど握らせた。


「通ってよし!」


遵法精神の薄い門番で助かった。


「待て!」


と、なんとか市民を振り切ってこちらにくる教団。

しかし時既に遅し。俺たちは都市の外に飛び出し、逃げ去っていたのであった。

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