第4話 アイリスの力

アイリスの紫の瞳が怪しげに輝き、周囲に周囲に魔力でできた黒い球がいくつも出現する。


「……全力で避けなさい。さもなくば……死にますよ?」


黒い球は高速でライチを含む男たちへと飛翔する。


「回避、回避!」


しかし間に合わず、男たちのほとんどに黒い球が直撃し、上半身を消し飛ばした。

どさり、と腰から上を失い足だけになった人間の体が倒れる。その光景は、思わず笑い出したくなるほどに滑稽で、喜劇的だった。


「……貴様」


ライチは怒りに燃ゆる目でこちらを見る。しかしアイリスは構わずに周囲に大量の黒い球を生成する。


「ここは裏路地です。何が起ころうと不思議ではありません……そう、情報屋が一人、消えたとしても」


アイリスはさっと手を振る。音もなくすべての黒い玉はライチに向かって飛び、回避も抵抗も許さずライチを消し飛ばした。


…………強い。

これが、『魔女』と謳われたアイリスの実力の片鱗……


「……さて、どうしましょうか」


アイリスは困ったような顔になる。潜り抜けた死線の違いか、カバネがいち早く立ち直るとアイリスに答える。


「……お前らの依頼なら、なんとかできる。ただ、俺はこの都市を出なきゃなんねえから……そうだな。冒険者ギルドを通じて、情報の受け渡しって寸法でどうだ?」

「いいでしょう。暗号は、レストで」

「……ああ。それから、頼みがある」


そういえば、先ほどそんなことを言っていた。


「こいつを……俺の娘のリアを、母親の下に連れて行ってやってくれ」

「……何故です?」

「俺はこれから危険な橋をいくつもわたんなきゃなんねえし、正直こいつを抱えたままだとキツイ。それに、お前たちといた方が安全で……」

「いい」


灰色の髪の少女、リアが父親の言葉を遮る。


「たとえ死ぬことになっても、父さんと一緒がいい」

「……リア」

「あの人のところになんか、行く必要ない。その人たちにも頼る必要ない。私たちは、私たちで生きていけばいい」

「……リア。お前のを欲する組織は幾らでもある。最悪でも……いや、ほぼ確実に、望まない相手との子供を作らされ続ける羽目になるぞ」


少女にするにしてはおよそ不適切であろう父親の脅しにも、少女は全く動揺しなかった。


「だったらその前に、私は死ぬ。自ら死を選ぶ」


悲壮とも言える覚悟を決めた少女の言葉によって、場に重苦しい沈黙が降りる。

リアはそんな周囲を気にする事なく、再び本の世界に没頭し始めた。


「…………リア」


そんな彼女を見ていられなくなり、俺は少女の頬に手を添えて無理矢理に視線を合わせる。

どこまでも無機質な、かつての俺に似た世界を諦めた目。


「リア、俺たちと共に来い」

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