第3話 情報屋

「……久しぶりだな」

「ええ」


情報屋は動揺を即座に抑え、アイリスにそう返事をする。灰色の髪の少女は、特に興味が惹かれなかったのか再び読書を始めた。


「依頼か?」

「ええ。先代の剣聖の今の居場所は分かりますか?」


特に駆け引きもなく、アイリスは依頼を口にする。何度か情報屋を利用して、信頼関係を築いてきたのだろう。


「……今の居場所、か。俺が知っている最後の居場所は三ヶ月前だ。今の居場所となると、少し時間がかかる」

「どれくらいですか?」

「三日あれば確実に」


情報屋は自信を持って断言する。その口ぶりからは、情報屋としての矜持が伺えた。


三日、か。それまではこのテッタを拠点として、冒険者ランクを上げたりして過ごすとしよう。


「では、お願いします。お代は……」

「いつも通りでいい」

「わかりました、ではその通りに」


くるりと振り返り、アイリスは再びフードを装着する。


「……あー、『魔女』。少し、頼みがあるんだが」

「……頼み、ですか?」


そのまま立ち去ろうとしたところで、情報屋がアイリスを引き止める。


その瞬間。


「おらあ!」


叫び声とどがあんと言う音と共に、扉をぶち破って何者かが入ってくる。

店内の客の視線にも構わず、その人物はゾロゾロと仲間らしき男たちを引き連れてこちらを目指してやってくる。


「……『心装』展開」


俺は刀フォームにした『心装』を展開して警戒する。


「……ライチ。何の真似だ?」


ライチと呼ばれた人物は、ニヤリと嫌な笑みを作る。


「喜べ、カバネ。情報ギルドは、お前を追放することになった」

「……追放……だと?」


情報屋……いや、カバネはライチを睨む。


「……俺は長年、情報ギルドのために働いてきた。上納金も、一度だって支払いを怠った時はない。……お前が、工作したのか?」

「いや何、元からその娘を欲しがる勢力が多くて、情報ギルドの行動が制限されていてな。それで今回、お前の除名が決まった……ただそれだけのことさ」


ぎりっと歯軋りをする音が聞こえる。


「貴様は昔からそうだった。人の弱みにつけ込み、情報を得て、その情報をまた弱みに変える。そして自らの私利私欲を満たすために使う……」

「御託はそれだけか?ああ、そうそう。その娘は貰っていくぜ」


そう言ってライチとその仲間はこちらを包囲する。灰色の髪の少女は、全てを無視して本に没頭している。


「目撃者はどうしますか?」

「消せ。カバネも殺してかまわん。ああ、別に愉しみたいなら愉しんでいいぞ」

「そう来なくっちゃ。さすがは大将!」


側近らしき男は生理的な嫌悪感を感じさせる目でサンをジロジロとみる。


「……さっきから黙って聞いていれば。私たちを消す?とんだ身の程知らずもいたようですね」


アイリスはフードを取り去る。俺はその目にたたえられた怒りに、思わず後ずさった。


「少し、本気を出すことにしましょう」

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