第2話 酒場
光が濃い場所では、闇もまた濃くなるものである。
情報屋がいるらしい酒場へ向かって、俺たちはテッタの裏路地を進んでいく。
明らかに裏社会の人間であろう男や、元の世界でいう半グレであろう若い男たち、それに妙に煌びやかな衣装に身を包んだ客引きをする女。
そういった人間が路地をうろつき、こちらに鋭い視線を向けてきている。
耳を澄ますと、遠くからは、嬌声とも悲鳴ともつかない声が聞こえてくる。
「……これでも治安は悪くはありませんよ。何せ、警護所の役人が見回っていますからね」
警護所は、この国の法執行機関の事である。司法を一手に担っており、元の世界の警察と検察と裁判所を合わせた権力を持っている。
もちろん腐敗と不正の温床だが、あまり悪どいことをやると領主に監査権を行使されて綱紀粛正の憂き目にあうため、あまり大規模なものにはなっていない。
「もう二、三階層奥に入れば、もうそこは警護団の目が届かない魔境です。最も、普通に暮らしていればそんなところには関わらないですし、あっちも決して手を出してきませんが……」
俺はなんとなく、これからの旅でそういう場所にいる人間と関わることになるんだろうなと思った。
「何よ、そんな怯えて。シャキッとなさい、シャキッと」
と、隣のサンが平然とそう言った。やけに場馴れしているなと俺は思った。
「……つきましたよ」
アイリスはそう言って、“アフローディテ”と看板に書かれ店の扉を開ける。中からは、アルコールの匂いが漂ってくる。
俺は顔をしかめつつ、アイリスに続いて中に入った。
ごちゃごちゃとした店内を、アイリスは迷わず進んでいく。そして、俺たちは情報屋と思わしき男の下へとたどり着いた。
男はどこにでもいそうな、特にこれといった特徴の無い捉え所のない容姿をしていて、まるでこの空間の一部のように環境に溶け込んでいた。
おそらく、通りがかっただけでは存在すら気付かなかっただろう。
情報屋の隣には、擦れた目をした十歳くらいの少女が座って読書に耽っている。燻んだ灰色の長い髪が、椅子の上へと流れている。
あまり人生に幸福というものを感じていないことが容易に読み取れた。
「……久しぶりですね、ロータス。娘ができたのですか?」
アイリスはフードを取り去る。美しい白髪とオッドアイ、そして美貌が露わとなった。
「……『魔女』」
情報屋は目を見開いた。そばにいる少女が本から顔をあげ、こちらを見た。
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