第7話 魔術
サンの魔法を撃つ手が魔力切れによって止まる。それによって、抑えられていた盗賊の進行が一気に始まり、戦場の均衡が崩れた。
「グアア!」
野太い悲鳴が上がり、護衛の一人が倒れ伏す。特に親しくも話したことさえも無いが、それでも味方が死んだという事実に俺が少なからず動揺する。
それは護衛も同様なのか、抑えられていた防衛ラインが徐々に突破され、陣地へと盗賊が入り込んでくる。
「……私も少しですが、介入しましょう」
アイリスはそっと腕を持ち上げ、ローブの中で手印を結ぶ。数秒後、ぱっと血飛沫が盗賊の中で上がり、侵入してきた盗賊のうちの結構な人数が地面に倒れ伏す。
「……風魔術、『風斬』。位階が上がっていない盗賊のみですが、片付けました」
『風斬』……俺は頭の中でパラパラと『魔術論』をめくる。
……風斬は、風魔法を再現した魔術である。精度や威力は使用者の制御によって改善できるものの、そこまで高いものでない。反面、隠密性と精度に優れる。とはいえ、使う機会はあまり多くないだろう……
なるほど、威力はあまり高くないからこそ、位階が上がっていない盗賊を狙い撃ちにしたようだ。
「シュン、魔力はどれくらい残っていますか?」
「あと1割ほどだ」
「ならばそろそろ前線に出た方が良さそうですね」
「……ああ」
俺は『心装』を刀形態へと変化させる。
「行ってくる」
「死なない限り、治してあげますよ」
アイリスはそういって俺を送り出す。俺は頷き、馬車の幌の上から地面へと飛び降りる。
姿勢を低くして馬車に身を隠すようにしながら、護衛の防衛ラインを抜けてきた盗賊へと近づき、首を狙って刀を突き出す。
鋭く尖った刀はあっさりと盗賊の首を貫通する。
位階の上昇は、この一週間暇さえあればずっと鍛え上げていた『心装』による不意打ちの一撃を防げるほどではなかったようだ。
とはいえ、攻撃をくらえば致命傷になるだろう。慎重に行動する必要がある。
「うおおおおおお!」
と、キュスターの雄叫びの声が聞こえる。思わずそちらをみると、盗賊が宙を舞っていた。護衛の頭を張っているだけあって、さすがの強さだ。
俺は盗賊の首から刀を引き抜いて、俺を排除しようと近づいてくる盗賊の剣を受け止める。
「なんだ?」
俺は感覚共有によって『心装』から伝わってくる強い痛みに顔をしかめながら剣をさばき、盗賊の首を切り落とす。返す刀でもう一人の盗賊も切り捨てる。
俺はその後も身を隠しつつ地道に盗賊の数を減らしていく。そして、その瞬間が訪れた。
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