第6話 敵襲

そしてそれから一週間ほど経った日の夜。


「敵襲!敵襲!」


真っ暗な夜の中、キュスターが声を張り上げる。幌の上で寝ていた俺は飛び起きてアイリスのローブを抜け出す。


周囲を見渡すと、松明を掲げた数十人もの軍勢が押し寄せてきていた。

どうやら包囲されているようで、松明の火があらゆる方向に見える。


こちらの護衛の人数は十人ほど。かなり厳しい状況だ。

もちろんアイリスに本気を出して貰えば解決するが……正体が露見するような真似はあまりしたくない。


「……みんな、目を閉じて!」


と、この一週間でそこそこ仲が良くなったサンが叫ぶ。ヒュウン、と光が夜空を切り裂き、周囲を真昼のように照らした。さながら照明弾のようだ。


強い非系によって、盗賊たちが目を抑える。


「……シュン」


俺も目に強い痛みを感じるが、一瞬でアイリスが癒してくれた。


「魔法、行くよ!」


と、サンが続いてそう叫び、上空に、太陽とも見紛うほどに明るく巨大な火球が出現する。


「はあ!」


サンはそれを、盗賊が一番密集しているばしょへと打ち出す。

この世の終わりのような光景に俺は空いた口が塞がらなかったが、しかし盗賊も無策ではなかった。


ぶうんと薄い膜のようなものが着弾地点に浮かぶ。ギャリギャルギャリと金属が削れるような耳障りな音ののち、ドオンと轟音が響く。


火球が爆発し、あたりを火炎で染め上げる。


「まだまだ!」


サンは上に手をかざすと、今度は少し小さめの火球を複数生み出す。それらは次次に盗賊の集団へと叩きつけられると、障壁と干渉し、ぶつかり合って恐ろしい音を立てる。


「行け、行けー!」


それに見惚れる間も無く、包囲している盗賊が荷台を目指して突撃してくる。


「––––『心装』展開」


俺は弓の形にした『心装』を展開する。


「『弓矢生成』『誘導』『遠見』『爆破』」


次いで、四つの魔術陣を展開する。俺のカメラアイがなければできない技だ。


俺はギリギリと弓を引き絞る。そして、盗賊の中でも一番位が高そうに見える男めがけて、矢を解き放った。


弓の武器としての特長は、静音性である。風を切る僅かな音と共に飛ぶ弓矢は魔術に誘導され、寸分違わず盗賊の一人の頭に命中し、爆発を起こした。


「くそっ」


元の世界の一般人であれば、頭が吹き飛ばされていたはずだが、盗賊は傷をおっただけで命に別状は無さそうだ。

毒づいているのが、口の動きからわかった。


俺はそれに構わずに、今度は別の方向に次々に矢を放ってゆく。


本気で仕留めると言うよりは、嫌がらせに近い感じだ。


戦況はどんどんと変化していく。

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