第3話 キュスター

「……暇です」


馬車の中で、アイリスがそう愚痴をこぼす。

馬車が動き出してから一時間。特に変わり映えの無い景色が馬車の外を流れている。


「シュンはさっきからぼーっとしてますけど、暇じゃ無いんですか?」

「ああ。昨日と今日で記憶した本を読んでるからな」

「…………?ああ、カメラアイですか」


画像で取り込んだ本は、文字の情報に勝手に変換されるわけでは無い。しっかりと読んで、情報を取り入れる必要があるのだ。


「もしかして、この商団の護衛に参加したのは、読む時間が欲しかったからですか?」

「それも一つある。もう一つは……お、来た」


どたどたと埃っぽい馬車の中に偉丈夫が入ってくる。さっき俺が背後から急襲した盗賊と激しく切り結んでいた男だ。


「……よう。さっきはありがとうな」

「いや。困った時はお互い様だろ?」

「はっはっは。なかなかいい奴じゃねえか」


偉丈夫はニヤリと笑う。


「俺の名はキュスター。このカッシート商談の護衛の頭をやらせてもらってる」

「シュンだ。礼がわり……と言ってはなんだが、色々と話聞かせてくれ」

「……ふむ。それなら、俺よりも適任がいるぜ」


そう言うと、キュスターは馬車の外へと出ていく。

3分ほどして、首根っこを掴まれるようにして連れてこられたのは、真っ赤な髪をした少女だった。


「こいつは火魔法の使い手で、サンっつうんだ。ま、物知りだし、暇だからこいつになんでも聞いてくれ。んじゃな」


サンを半ば馬車の中に放り込むようにして入れると、キュスターは去っていった。

護衛の頭と言っていたし、色々と忙しいのだろう。


「……俺はシュンだ」

「知ってる。で?何が聞きたいの?言っとくけど、守秘義務があるからこの商団のことはあんまし答えらんないよ」

「そうだな。まずは、君の魔法……あるいは魔術から教えてくれないか?」

「は?魔法?」


サンは胡乱げな顔つきになる。


「私の魔法なんて見てどうする気?」

「俺たちの旅の目的の一つに、色々な魔法があるというのがあるんだ」

「ふーんそう。悪いけど、私の魔法は見せられないわ。うまく制御できないから、下手に使うとこの商団ごと吹き飛ぶ」


なるほど。それでさっきは乱戦中で参戦できなかったのか。


「……ちなみに属性は?」

「火。生まれつきちょっと火力が高いのよ」


見てみたいが、残念ながらその機会は無さそうだ。


「それで?他は?」

「……そうだな。最近の冒険者事情とか?」

「そうね。仮にも王都にいたわけだし、それなりに情報は集まってくるわ。例えば、勇者召喚……とか」

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