第二章 盗賊

プロローグ

「なんというか……ザ・魔法使いみたいな格好だな」

「ざ?」


アイリスが小首をかしげる。


一週間後、旅の準備を整えた俺たちは、出発の時を迎えていた。


アイリスは、体型をわからなくするほどのぶかぶかのローブで全身を覆っている。フードを被ると、アイリスの髪と顔が覆い隠され、さらに特徴が分からなくなる。


「いや。そういうローブが、俺たちの世界の魔法使い……いや、魔術使いのイメージなんだよ」

「そうなんですか。それならば、この世界もあまり変わりませんよ。魔術使いの方は好んでローブを着る傾向にあります。いろいろなものを隠せますからね」


魔術陣を即座に空中に形成できる俺とは違い、大抵の魔術師はあらかじめ魔術陣を描いた紙や布を使っている。

それらを隠すことも、手印ローブの中で結んで魔術の発動を隠すこともできる。確かにローブは有用そうだ。


だが……


「……不審者扱いされたりはしないのか?」


人相が見えないため、結構怪しげな格好ではある。日本の街中にいたら、下手したら通報されかねない。


「これまで咎められたことはありませんが……いざとなったらこれを使いますよ」


そう言ってアイリスは懐から金色の硬貨を取り出す。この世界の通貨で、一万コグ……日本円で大体十万円ほどである。


「賄賂って効くのか?」

「ええ。上から下まで、未だ賄賂は残り続けていますよ」


アイリスはこともなげにそういうと金貨をしまう。

日本だと行政機関での賄賂はあまり無い––––警察などの国家権力に一般市民が賄賂を払うことはほぼ無かった––––が、世界を見渡すと賄賂がない国の方が少なかった覚えがある。


善悪はさておき、賄賂も行政を円滑にする一つのツールという見方もできるだろう。


「では、行くとしましょう」

「ああ」


アイリスは指先に光の球を生成する。そして、それを小屋に向かって放った。

どん、という爆発が起こり、ここにいた痕跡を消し去るように古屋を吹き飛ばす。


アイリスは特に感傷に浸るようなこともなく、歩き出す。

俺は反対に少し名残り惜しさに振り返ったりしながらも、アイリスに追従した。



Tips 通貨

単位はコグ。だいたい1コグ=十円くらいの価値である。紙幣はなく、硬貨のみで流通している。種類は以下の通り。

鉄貨1コグ

銅貨100コグ

銀貨100コグ

金貨1000コグ

白金貨10000コグ

ミスリル貨1000000コグ

ミスリル貨はほとんど流通していない。

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