第九話 魔法

俺は本棚から『魔法論』を引き寄せて開く。どうやら同じ作者が書いたようで、文調が全く同じだった。



……魔法は、発動者の想像力に従って世界を改変する。例外なく全ての魔法は各個人の属性以外発動できない。例えば、属性が火で有る者が水魔法を発動することはできない……



薄々察していたが、この世界では『魔法』と『魔術』は明確に区別されているようだ。



……属性は、普通属性として火・水・風・土、希少属性として光・闇・空間・記録・月・太陽など、勇者属性として星・聖・斬・盾などが知られている。普通属性の所有者がほとんどであり、希少属性の所有者はほとんどいない。また、勇者属性は召喚者のみしか保持していない。なお、複数属性の所有者は希少属性の所有者よりもさらに少ない……



「そういえば、アイリスの属性はなんなんだ?」


見た限りだと、アイリスの使った魔法は白い炎に回復、オーラと言ったところか。この記述にあるどの属性にも当てはまりそうに無い。


「知りたいですか?」


アイリスは嬉しそうに言うと、美しいオッドアイをきらめかせ、右手に白い炎、左手に黒い炎を纏う。


「私の属性は『黒白こくびゃく』ですよ」

「……かっこいいな」

「ふふ。ありがとうございます」


俺のステータスには、属性・なしと書いてあった。魔法は使えなそうである。


ぺらぺらと『魔法論』のページをめくり、『次元魔法』と『根源魔法』のページに飛ぶ。



……属性『次元』は所有者がほとんどいないため、詳細は不明である。魔術化に成功した例もない。次元の隙間にものを仕舞う、異世界間を移動するなどが可能だと言われている……



「魔術化?」

「ええ。この世界の魔術は、“魔法を再現する”方向に発展してきたのです。つまり……」

「次元魔術を再現できていない、ってことか」

「ええ」


と、俺はふと疑問を抱く。


「勇者召喚の魔術は?異世界の召喚だし、関係があっても良さそうだが……」

「勇者召喚はロストテクノロジーなので、あまり詳しいことは分かっていません。研究も制限されていますし……」


それはそうか。勇者召喚の技術が広まったら、間違いなく私利私欲のために悪用しようとする輩が出てくる。


俺はページをめくっていく。



……属性『根源』はこの世界の根源を操作する、全てに属性の上位に位置する属性である。無から有を創造し、あらゆる物質の組成を変え、あらゆる魔法を––––希少属性や勇者属性も含めて––––再現することも可能。魔力さえあれば、この世界を根底から作り変えることもできる。文字通り金の卵を生産することも可能なため、属性『根源』の所有者は歴史上権力者や力のある商人、犯罪者に囲い込まれ、その力を搾取されてきた。属性『根源』の所有者を巡って戦争が起きたことは数知れず、また所有者が女性だったことによって生じた悲劇もまた枚挙に暇がない……



なんだか色々と曰く付きの属性のようだ。だが、確かに根源魔法であれば、異世界へ跳ぶこともそう難しくは無さそうだ。

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