第七話 魔術陣

……魔術陣の書く方法は非常にシンプルだ。指先に魔力を集中させ、空中に描くのみ。さすれば、魔法陣が描かれるであろう……



「……よし」


俺は早速試してみることにした。

先ほどこの本魔術論を引き寄せた際に、魔力の感覚は掴めている。


意識を集中させると、ぽわりと指先が暖まる感覚がする。


俺は魔術論に描かれている魔術陣を記憶し、丁寧に空中に描いていく。

魔術という心震わせるものの前に、俺はいつのまにか痛みや疲れを忘れていた。


どうやらイメージさえしっかりと持っていればある程度の図形の歪みは修正されるようだ。


「……よし。完成だ」


俺の眼前には、円や五芒星などのさまざまな図形が組み合わさった魔術陣が浮いている。図形の線は金色に輝いており、とても神秘的だ。


魔術陣に手をかざすと、魔術陣を動かすこともできる。


あとは発動させるだけだが、俺はその前にこの魔術についての記述に丹念に目を通す。


どうやら設定温度と適用範囲さえ決定すれば問題ないようだ。俺は正確なイメージを持ちつつ、魔術陣を発動させる。


すると、少しだけ暑かった部屋の温度が徐々に低下していく。


「……成功だ」


俺は一旦魔術の発動をやめ、魔術陣を消失させる。


しかし、あれだ。成功したとはいえ、あまりにも効率が悪いというか、手間がかかりすぎる。

魔術陣を描くのにかなり時間がかかるし、例えば戦闘時などにはほぼ使えないだろう。


「……うーん」


どんなに頑張っても魔術陣を描くのには時間がかかってしまいそうだ。となれば、魔術陣を描くのではなく写してしまえば……?


「……シュン。一応部屋は完成しましたよ」


と、いつのまにか部屋に入ってきたアイリスが背後から話しかけてくる。俺は驚いて振り返った。


「あ、ああ。すまん。勝手に見てた」

「ええ。構いませんが……『魔術論』ですか。もしかして“温度調整“を発動しましたか?」

「ああ」


俺は『魔術論』に描かれている魔術陣を記憶に。そして、魔力でそのまま記憶の中の魔術陣を転写した。


「……!今の、どうやったのですか?」


ずいっとアイリスが美しいオッドアイをキラキラさせて身を乗り出してくる。どうやら知的好奇心を刺激してしまったようだ。


「……魔術陣の図形をそのまま記憶して、それを転写しただけだ」

「…………?魔術陣をそのまま記憶して点……転写?」


アイリスが理解できないというように首をかしげた。



Tips『魔術』

作中でも述べられている通り、“魔力を以て世界を改変する技術”である。発動方法としては魔術陣・手印・詠唱が最もよく知られている。

“手印”は日常的な魔法発動に、“魔術陣”は魔法を活用した道具に、“詠唱”はこれらの発動方法の補助として、それぞれ使われることが多い。

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