第六話 魔術

結果。ボコボコにされた。


そもそも俺は多少抜刀術の型が使えるだけで、実戦ができるわけでは無い。対してアイリスはおそらくはこの世界でも有数の実力者……当然、勝てるわけがなかった。


数十回にわたり地面を舐める羽目になり、俺はベッドに逆戻りした。


外からはドカン、バコンという工事の音が聞こえてくる。俺がここに住むために、増築してくれているのだ。


俺は寝返りを打ち、暇つぶしに壁の本棚を眺める。『魔術』や『魔法』、『心装』に関する本もある。

手に取りたいが、今の俺は歩くことさえ難しい。


と、そこで俺はふと思いついた。

確か、アイリスが本を引き寄せる時に手印を組んでいたはずだ。確か……


俺は気合いと根性で腕を動かし、本棚の方へ向ける。『魔術論』と書かれた本を引き寄せるようなイメージをしつつ、アイリスを真似て手印を組む。


そして数秒後、俺は自身の軽率さを後悔することになった。


何かが自分の中から手印に流れる感覚がして、恐ろしい勢いで『魔術論』が俺の方に飛んでくる。


……そういえば、引き寄せる速度と引き寄せる位置を設定していない。


そのことに気づいたのは、本が俺の顔面に衝突し、俺が痛みでベッドの上をのたうちまわっている最中のことであった。


俺は痛みが治るのを待ち、気を取り直して『魔術論』を開く。


「……ふむ」


幸いにも、初学者にも分かりやすく書かれている。概念の一つが丁寧に説明されている。

俺はところどころ読み飛ばしつつ、要点だけを拾っていく。



……魔術とは、魔力を以て世界を改変する技術のことである。その発動方法として知られているのは三つ。即ち、魔術陣・手印・詠唱である……



なるほど。手印は魔術の発動方法の一つのようだ。



……複雑な魔法では、この三つのうち二つ……もしくは全てが必要になる場合がある。上記発動方法なしに直接世界を改変するのは、極めて難しい。一説によれば……



そこからは非常に小難しい理論が延々と続いていたので割愛する。

ともかく、魔術は魔術陣・手印・詠唱によって発動する……くらいの認識で良さそうだ。


俺はぺらぺらとページをめくっていく。どうも作者はかなり理論を細かく詰めるタイプのようで、延々と『魔術』の理論について述べられている。

本の半分ぐらいを過ぎたところで、ようやく各魔法の発動方法が書いてあるページにたどり着いた。


まずは魔術陣から載っている。



……魔術陣は、空中に描くこともできるが、多くの場合は物に刻み込み、それを発動させるのが実用的だろう。魔法陣の複雑な意匠を記憶し、正確に描くのは難しいためだ。本書は魔術の一般書となることを目的に執筆しているから、練習用の魔法陣と、空中に魔法陣を描く方法を記載しておく……



練習用の魔法陣として、部屋の温度を自動で検知し、設定した温度に調整する魔法と、その下に魔法陣の書き方が記載されていた。

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