第五話 素

相変わらず透明だが、アイリスのオーラで浮き彫りになっている形は弓のそれへと変化している。


「……変形、か」

「……なるほど。王城で、魔法から自分を守ろうとした時に盾として出現したんですね」

「ああ。そうみたいだな」


俺試しにいろいろな形に『心装』を変化させてみる。


弓、剣、刀、ナイフ。蛇腹剣なんかの創作武器も容易に造形できる。創意工夫次第で、無限大の可能性がありそうだ。


尤も、ダメージが痛みとしてフィードバックされることは何も変わらないので、結局武器として使えるかはまた別の問題だが。


俺は『心装』を刀の形に固定し、手にとって腰に構える。刀と体を一体化するイメージを持ちつつ、呼吸を整えていく。


「……シッ」


そして、抜刀術を放った。厨二病を発症していたころ、親父に教えてもらった技だ。

キィン……という耳鳴りのような音が響く。


「綺麗な型ですね。そのうち“閃光”も出そうなほどに」

「ありがとう」


俺は残心を解く。

今の抜刀術、全く剣閃が見えなかった。攻撃を受けた者は、何に斬られたのか……いや、斬られたことにさえ気付かずに崩れ落ちるだろう。


「ところで、さっきから気になってたんだが……それが素の口調なのか?」


俺の『心装』を粉々にしてから、アイリスの口調が変わった。比較的強気な口調は鳴りを潜め、今は丁寧な口調になっている。


「口調……え、あ……えっと、これはですね……」


アイリスは目を泳がせる。


「……えっと、その……舐められないようにするためにですね」


……それを言ったら今までの強気な口調が何の意味も無くなるだろ。


俺はそう心の中で突っ込んだ。


いたたまれない空気が流れる。

どうするんだ、この空気……


「……そうです!」


と、何かを閃いた様子のアイリスが叫ぶ。


「シュンも折角戦えるのですから、模擬戦と行きましょう。もちろん、私はいざという時しか魔法は使いませんし、シュンは刀を使ってもらって構いませんよ」

「……え?」

「やはり拳を交えることはコミュニケーションと聞いたことがありますし。いかがですか?」

「……えーと」


あまりの突拍子もなさに、俺の頭はついていけなかった。


「怪我したら……」

「大丈夫です。私の白の魔力が癒しますよ」


そう言ってアイリスが白い炎のようなものを右手にゆらめかせる。


なるほど、治癒能力を持っているのか。


確かに、王城から放り出された俺は水面に叩きつけられ、結構な怪我を負っていたはずである。

俺は今健康体なので、治したのがアイリスということだろう。


「……えっと……じゃあお願いしようかな」


俺はそう答え、刀を逆刃刀へと変化させる。

アイリスは嬉しそうに頷くと、拳を構えた。

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