第四話 感覚共有

透明な『心装』。


これの問題点は、俺にも見えないということである。どこが持ち手なのか、どこに刃がついているのか……そういったことが全く分からない。


例えば『心装』を落としたとしよう。どこにあるか分からないので、拾い上げることすら困難だ。


そんなことを考えていると、徐々にダメージが回復してきた。一応、体のどこも傷ついていないようだ。


ということは、さっきの痛みは一体?


「……思っていることは大体わかります。もう一度『心装』を出していただけますか?」

「……ああ」


俺は警戒しつつも、アイリスの指示に従い『心装』を出す。アイリスは右半身から、ゆらゆらと黄金のオーラを放出する。


すると、それにかたどられるようにして俺の『心装』の形が明らかになった。


「……盾、ですか?」


子供が砂場で造形したような、不恰好な三角盾。持ち手が無いので、装備することは難しそうだ。


「そうみたいだな」

「……なるほど。……透明な盾……あまり実用性を感じませんが……『心装』の特殊能力は基本的に一つで完結しているはず……本来の機能は別に?」


何やら考え事をしているアイリス。

俺はそっと盾に触れてみる。すると、“触れられた”という感覚が伝わってきた。


なるほど、『心装』とは感覚を共有するようだ。これが、『心装』を壊された時に痛みを感じた理由だろう。


「気付かれましたか?」

「ああ。感覚共有、だろ?」

「ええ」

「……『心装』を戦闘に使うやつはいるのか?」

「ほとんどいませんね。鍛え上げなければかなり脆いですし……壊された場合、一時的に戦闘不能になりますから」


そりゃそうか。

武器を壊されただけであれだけのダメージを負うのは、流石に使う代償が大きすぎる。


「そもそも『心装』を発現する人も少ないので……滅多に使い手はいませんね」

「……なるほどな」


つまるところ、俺がこの『心装』を使う機会はなさそうだ。盾が喰らったダメージはそのまま俺に痛みとして還元されてしまう。

それならば、他の武器を使った方がはるかに効率的だ。


「……せめて、弓とかだったらな」


遠距離武器ならば、壊される危険性は低いので、まだ使い道があっただろう。

そんなことを考えていると、くにゃりと盾の形が歪む。


そして、『心装』が弓の形へと変化した。


Tips『心装』

『心装』とは、己のみが使える武器である。

使い手によってその形状は異なり、全く同じものは存在しない。

また、『心装』展開による代償は存在しない。しかし、使い手と感覚を共有しているため、武器が負ったダメージは痛みとして使い手に帰ってくる。そのため、『心装』が発現したとしても実戦で使う者はほとんどいない。

ちなみに、感覚共有という性質から、一部の界隈では『心装』プレイなんていうのも流行っているとかいないとか……

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