第三話 『心装』

「勇者についてはそんなところでいい?」

「ああ。今後も関わることはないだろうし……関わる気もないからな」


もちろん、そんなわけは無いのだが……この時の俺は、知る由も無いことであった。


「それで、なんで竜巻のような魔法を防げたか、だけど……実は検討がついてるわ」

「……まじか」

「ええ。庭に来て」


アイリスはそういうとテーブルの上の食器をキッチンへと、玄関へと移動する。

そして、外へと続く扉を開いた。


「……森だな」

「ええ。ちなみに、あなたが流れてきた川はそっちにあるわ」


アイリスが指差した方向からは、確かに水音が聞こえてくる。


「……で、あなたが風魔法を防いだ方法だけど……おそらく、『心装』よ」

「『心装』?」

「ええ。国によっては『鏡装』とか『ウツシエ』とか、呼び名が違うけれど……一番ポピュラーな呼び名が『心装』ね」


あの時、俺は『心装』を無意識に使い、ズタズタにされずに済んだわけか。


「『心装』はいわば、自分だけの武器。形はそれぞれによって違うわ」


自分だけの武器……セキュリティ高そうだ。


「もう『心装』を出したことがあるのなら、展開は簡単なはず。イメージをしてみて」

「イメージ……」


俺は何かを展開するようなイメージをする。しかし、何も出てこなかった。


気まずい空気が流れる。


「……えっと」

「そ、そうね。流石に慣れてないと厳しいのかもしれないわ。“『心装』展開”と唱えて補助してみて」


思春期の男子にとってはなかなかキツイ要求だが、致し方あるまい。


「……『心装』展開」


しかし、何も起きなかった。

先程よりも、ややねっとりとした気まずい空気が流れる。


「……えっと」

「……おかしいわね……うん?」


アイリスは突然、俺とアイリスの間の空間を白いモヤを纏った拳で殴りつける。


「ぐがっ!」


かしゃあんという音がして、俺は全身を棍棒で殴られたような痛みを感じ、その場にうずくまった。


「……だ、大丈夫?」


あの時とは違ってアドレナリンが出ていないので、痛みが緩和されることもない。

体を動かすことができず、目を開いても視界にはチカチカと星がまたたくのみだった。


「どうして……」

「その、悪気はなかったと言いますか……えっと、ごめんなさい……」

「……いいから、説明を頼む」


俺の視界はまだ回復していないが、話を聞くことは何とかできる。


「……えっと、ですね。シュンの『心装』はおそらく、透明なんだと思います」

「透明?」

「はい。なので、召喚されていないように見えただけですね」


透明の『心装』か。ロマンはあるが……実用性があるかは疑問である。

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