第二話 暮らし
俺は本を読まず、アイリスが料理している姿をソファに座ってぼーっと眺める。
アイリスは野菜を浮かべては包丁を使わずに切断し、同じく空中に浮かべた鍋に放り込んで言っている。
鍋は白い炎によってコトコトと煮えていた。
アイリスは棚から大きなフランスパンを取り出し、八つに切り裂くと、先程まで焼いていた肉や、切断した野菜などを挟む。
「……できた。シュン、食べよう」
「……ああ」
俺は生返事を返し、食卓につく。
「……今日のメニューは、野菜スープとサンドイッチ……まあ、いつも大体3食これだけどね」
随分と偏った食生活を送っているようだ。
「それじゃ、食べようか。いただきます」
どうやらいただきますという挨拶は異世界にも定着しているらしい。俺も「いただきます」と言いながら、そんなことを考えた。
俺はまずスープから飲んでみる。
––––うまい!
雑多に野菜が煮られているように見えて、このスープはかなりの経験の賜物だということがわかる。
野菜の形状、大きさ、そして煮る時間。全てが完璧な調和を保った結果、スープのおいしさが一段上のものになっていた。
「……気に入ってくれた見たいね」
「ああ。毎日飲みたいくらいだ」
「そう。それで……あなたは結局、何者なのかしら?なぜ、召喚されてすぐに城から追い出されているのかしら」
「俺にも詳しいことは分からんが、実は……」
俺はかくかくしかじかと城であった出来事を話す。
「……風魔法……おそらくこの国の宰相、キュルスターね」
アイリスは尊大な男の正体をそう推定した。
「完璧主義で、自身が関わった物事にケチをつけられることを嫌う……そのためには、どんな苛烈なこともやってのけるわ」
「……完璧主義……か。政治家にしちゃいけないタイプだな」
「なぜか民衆の人気は高いけれどね」
あの男がか?
俺は首をひねらざるを得なかった。
「ええ。彼は汚職や不正を絶対に許さないことでも有名だから」
「……なるほど」
それは確かに、大衆受けしそうである。
「次に、勇者だけれど……以前召喚されたのは400年前。いわゆる『文化の勇者』ね」
「『文化の勇者』?」
「ええ。勇者は記録の限りだと六人いるわ。彼らそれぞれに異名がついているの」
そういうと、アイリスはきゅっと手印を結ぶ。すると、本棚の一冊の本が動き出し、ひとりでにアイリスの手へと収まった。
表紙には、「勇者研究」と書かれている。
「……これね」
アイリスはパラパラとページをめくると、挿絵を見せてくる。
「これが勇者、聖女、賢者……当時のパーティは三人だけだったらしいわ。そして、これが当時の世界の危機……世界蛇ウロボロスね」
そこには、尾を加えた蛇がおどろおどろしく描かれていた。
「……結果、ウロボロスは討伐された……と言われているわ。表向きには」
「表向きには?」
「ええ。これが『言語の勇者』。『文化の勇者』の50年前ね。彼らのパーティは、勇者、聖女、剣聖、守護者だった」
「……賢者が抜けたな」
「ええ。だから私はこう推測する……おそらく、勇者召喚では必ず七人が召喚される。ただ、その七人全員が勇者パーティとなるわけではなく……」
「何人かは抹消されている、ということか」
「……それがどういう形かは分からないけれどね」
俺が『今代の勇者(仮名)』の勇者召喚の栄えある抹消者第一号となったわけだ。
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