第一部 逃避行編
第一章 邂逅
第一話 甘い香り
どこか懐かしくも、甘い香りで俺は目覚めた。
美しい木目の梁と屋根が目に入る。どこかの小屋の中にいるようだ。
俺はのろのろと起き上がり、あたりを見回す。誰かの寝室だろうか……姿見や箪笥、それに本棚などの家具がある。
『魔法論』、『魔術論』、『火と水の対立性について』、『魔術における対称性の破れ』、『一般魔術』……
本棚には魔法、あるいは魔術に関する本が多い。
と、そこで俺がどの本の表紙も日本語で書かれていることに俺は気付いた。
おそらく、日本語を過去に召喚された勇者が広めたのだろう。
ベッドのサイドテーブルには、『実在論』という本が置かれている……どうやら、この部屋の主は魔法に関する本を読みながら就寝するようである。
窓の外には、森が広がっている。太陽に照らされて、葉が青々と輝いていた。
俺はベッドから降りて、大きく伸びをする。
どこも痛まない。体に異常はないようだ。
そのまま、部屋の扉を開く。すると、キッチンが備え付けられたリビングに出た。
……人、か?
俺はソファの向こうで誰かの気配を感じる。ちょうど背もたれがこちらを向いているため、詳しいことはわからない。
その人物の正体を確かめるため、俺はソファの正面へと向かう。
そこには、美しい白髪を持つ少女が規則正しい寝息を立てていた。
少女は俺の視線に気づいたのか、「んん……」と微かな声を上げて瞼を開き、左右で色の違う少女の瞳が露わになった。
右目は太陽のように黄金に輝き、左目は深い紫色に沈んでいる。昼と夜……あるいは光と闇を俺に連想させた。
そして、少女の顔立ちは幼馴染の綾華とそっくりだった。
瞳や髪の色は綾華とはかけ離れているのでだいぶ印象は違うが、それでもそっくりだ。
「……起きたのね」
綾華にそっくりな少女はそう言うと起き上がる。
「まずは助けてくれてありがとう。それで、ここは……どこなんだ?」
「アリステルから10キロの森の中。よく魔獣の餌にならなかったわね」
アリステル?
「この国の王都のことよ。異世界から来たあなたは知らないんだったわね」
「……なぜ」
「あなたのきていた服……この世界のものじゃないから。すぐにわかる」
少女はそういうと立ち上がる。
「あなた名前は?」
「俺は……シュンだ。君は?」
「アイリス。人は私を、『魔女』と呼ぶわ」
『魔女』……か。一体どういう経緯でそんな名前がついたのだろうか……
「先にご飯にしましょ。できるまで、そこにある本を好きに呼んでて」
アイリスはソファから立ち上がると、キッチンへと向かっていった。
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