第五話 追放

「『勇者』、『聖女』、『守護者』、『賢者』、『剣聖』……『呪術師』は伝承にはありませんが、それぞれ伝説の職業ですな」


男は尊大にそう言うと、俺の方を向く。


「……ただ、一人を除いては」

「…………」

「この召喚にはかなりのコストがかかっている。ほとんど見つかることのない巨大な『召喚の宝玉』、千人単位の優秀な魔法使いの魔力。この魔法陣の開発にも、相当の期間と費用を費やした」


男はそう言いながら手元の水晶を握る。


「……故に、この召喚は完璧なもの出なくてはならない。英雄たる勇者の門出に、貴様のような無能は不要だ」


––––まずいな。


俺は頭の中で「ステータス」と唱える。


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

シュン

属性:なし

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


目線で気づかれないようにステータス画面を端から端まで見る。しかし、この状況を解決するものは無さそうだった。


「……悪いが、貴君にはここで退場願おう」


男は手を上に掲げ、魔法によるものと思われる竜巻を生み出す。竜巻はそのサイズをどんどんと小さくし、反比例的にその力を増大させていく。


俺の親父は言った。「ピンチも意外とどうにかなる」と。しかし……これはどうにかなるのだろうか?


俺は再度ステータスに目を通す。シンプルな表記には、この状況を解決するような何かは含まれていなかった。

勇者たちはというと、状況を呑み込めていないのか、ぽかんとただこちらをみるか、魔法に見惚れるか……あるいは傍観を決め込むのみであった。


「……どうしろって言うんだ」

「……どうしろ……ですか」


尊大な男はくつくつと笑う。


「……では、これを捌けたのであれば……それほどの力を持っているのであれば、あなたを高待遇で迎えることにしましょうか」

「…………」


ピンチも意外とどうにかなる……親父は実際のピンチをどうにかしてきた人間だ。

今はその言葉を信じてみることにしよう。


「……はああああああ!」


俺は高速でこちらに向かってくる竜巻を防ぐようなイメージをする。


ぱきいん……と何かが割れるような音がして、俺の身体中に凄まじい激痛が走る。

そして、俺はぽーんと空中に放り出された。


竜巻にズタズタにされずには済んだようだが、未だピンチが継続中なのは間違いない。


上下左右に回転する視界の中で、俺は何とか生き残る術を探る。

幸いというべきか、俺は風に乗って城の外……いや、壁の外の川に向かって落ちていっているようだ。


俺は生き残るため、必死に姿勢を制御しようとする。しかし、回転を元に戻すことはできそうになかった。


俺は一縷の可能性にかけて、の体勢をとる。


数十秒後。

俺は強い衝撃を感じ、意識を失った。

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