第二話 ステータス
ふっと何かが入れ替わったような感覚がした後、俺は強烈な負荷を味わう。
力づくでねじ込まれるような、内臓全てを握り締められるような感覚が俺を支配する。
脳も例外ではなく、ひどい頭痛が襲ってくる。俺の視界は真っ赤に染まった。
「……ぐっ……がっ……」
1、2、3、4……
俺はひたすら数を数えてそれをやり過ごす。いつか綾香に教えてもらった方法だ。
数が100を超えたあたりで、トンネルを抜けたかのように視界がクリアになった。
「……ここは?」
クリアになった視界であたりを見渡す。
今いる建物は、柱に支えられたドーム状の天井があるのみで、壁はない吹きさらしの状態だ。
そのおかげで、かなり景色がいい。
ここはどうやら中世風の巨大な城の一部のようだ。
城を中心とする同心円モデルの街が広がっているのが見える。街を見ただけでも、かなりの国力を持っていることが伺える。
街全体が外敵から守るように壁で覆われていて、壁外には森……そして、スラム街と思われる淀んだ空気が見て取れる領域が広がっていた。
床には俺をここに転移させたあの魔法陣と同工異曲のものが刻まれている。こちらが受信用で、地球で出現したのが送信用といったところだろうか。
この吹きさらしの空間には、俺とともに召喚されてきたらしき15-20歳くらいの同じ日本人と思われる男女が7人ほど。
そして、部屋の中心にこの魔法陣を操作していると思われる魔法使いと、そしてその人物を従えるように立つ六十歳ほどの男がいる。
その男は、地球で何度か見た、自分が世界の中心にいると勘違いしている者特有の嫌な目をしていた。
「ようこそ我らが世界へ、異世界人の方々」
男が尊大な調子で言った。
俺は警戒しつつも、ひとまずその警戒心を表に出さないように務める。
「……ここはどこなの!?」
食ってかかろうとする少女を歯牙にもかけず、男は話を続ける。
「まずは混乱しないでいただきたい。ここはスルニー王国……この世界で最も強大な力を持つ国だ」
“最も強大な”のところで微かに男の表情が動く。
全くの嘘というわけでは無さそうだが、真実でもなさそうだ。
「そして、諸君らはわれらによって異世界より召喚した勇者だ」
「……勇者」
召喚された男女の何人かが色めき立つ。
「……ということは、私たちが必要なほどの敵もいるってこと?」
召喚された男女の一人……メガネをかけた少女が、落ち着いた声でそう言った。
「その通りだ。邪神ウィルム……そう名乗るモンスターによって、この世界は滅びに向かっている」
俺は外の景色を見る。
完全な平和とまでは行かずとも、とても滅びに向かっているとは思えない。
「……ふむ。疑うのも無理はない。クラム、見せてやりなさい」
「はっ」
どこかからローブを被り、大きな杖を持ったみるからに魔法使いと思われる人物が現れる。
そして、その人物は呪文を詠唱し始めた。
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